日本を拠点に活動し、一時は96万人を超えるチャンネル登録者数を集めた著名な韓国人YouTuber「韓国人先生デボちゃん」(本名:チョ・デボムさん)。彼が突如として自身のYouTubeチャンネルから過去の動画を大量に削除、あるいは非公開設定にしたことが、視聴者の間で大きな波紋を広げています。この行動の背景には、彼自身が動画内で発信した「韓国で下半身だけの遺体が37体発見された」という極めてセンセショナルな内容が関係していました。
この発言が単なるネット上の話題に留まらず、韓国の警察当局が「虚偽情報の流布」の疑いがあるとして、正式な捜査に乗り出すという異例の事態にまで発展しています。警察は、この行為が韓国の国際的な信用を傷つける「国益を損なう行為」に該当する可能性があると指摘しており、事態の深刻さを物語っています。デボちゃんさん自身は、警察の捜査を受ける意向を示しつつも、発言内容については「事実である」との立場を崩しておらず、見解は対立しています。
この記事では、一連の騒動の経緯を時系列で整理し、以下の点を深く掘り下げ、中立的な視点から何が起きているのかを詳細に分析・解説していきます。情報の正確性と公平性に配慮し、憶測を排して事実関係を追います。
- デボちゃんさんが動画を大量削除(非公開化)した直接的な理由と、その背景にある警察の動き。
- 最大の争点である「遺体37体」という発言は、果たして事実に即したものなのか、それとも「デマ」と断じられるべきものなのか。
- 韓国警察がなぜこれを「重大犯罪」「国益を損なう行為」とまで位置づけ、サイバー捜査隊を投入するに至ったのか、その社会的・政治的背景。
- デボちゃんさんが今後、法的な措置(逮捕を含む)を受ける可能性はあるのか、そして彼のYouTuberとしての活動はどうなるのか。
- 彼の活動スタイルの変化、特に韓国帰国後の政治的発言の増加と、今回の騒動との関連性。
- 過去に話題となった「林原めぐみ騒動」や、いわゆる「親日ビジネス」と称されるYouTubeのコンテンツモデルとの関係性。
1. デボちゃんが動画を削除した背景と警察捜査の経緯
2025年11月、デボちゃんさんのYouTubeチャンネルから、特に韓国の政治や社会問題に言及した動画がごっそりと姿を消しました。この大規模な動画の非公開化(削除)は、視聴者による自発的なものではなく、外部からの極めて強い圧力、すなわち韓国の公権力が動いたことへの直接的な対応でした。ここでは、事態が動いた経緯を詳細に追います。
1-1. 韓国警察が「重大犯罪」として捜査に着手
2025年11月5日、韓国の警察庁は、デボちゃんさんを対象とした本格的な捜査に着手したことを公式に発表しました。この発表は韓国国内でも大きく報じられ、事の重大さを示しています。担当部署は、サイバー空間での犯罪を専門に扱うソウル警察庁サイバー捜査隊であり、警察当局がこの問題を単なる「ネットの噂話」として軽視していないことが明確になりました。
警察が特に問題視したのは、デボちゃんさんが2024年10月22日に投稿したとされる動画です。この動画は「最近ビザなしで韓国に入国した犯罪者中国人達の殺人と臓器売買問題がやばい」という、非常に扇動的かつ具体的なタイトルが付けられていました。この動画内で、「韓国国内で下半身だけの遺体が37体発見された」「非公開で捜査中の事件だけでも150件にのぼる」といった、具体的な数字を伴う主張がなされたと報じられています。
警察庁は、これらの確認されていない内容が、韓国国民の不安を不必要に煽り、社会的な混乱を引き起こす可能性があると指摘。さらに、こうした情報が(特に日本語で発信され)日本国内で拡散することにより、韓国の国際的なイメージや治安に対する信頼が著しく損なわれる「国益を損なう行為」であると、極めて重い判断を下しました。観光や海外からの投資といった実体経済への悪影響も懸念されたものとみられます。
1-2. 動画削除の理由は「警察の捜査」
韓国警察によるこの公式発表とほぼ時を同じくして、デボちゃんさん自身も自身のチャンネルで新たな動画を投稿しました。タイトルは「韓国の警察に捜査うけに行ってきます」というもので、彼が警察の捜査対象となったことを自ら認める内容でした(この動画も、その後非公開または削除されたとみられます)。
この釈明動画の中で、デボちゃんさんは自身の置かれた状況を説明し、今後の対応について言及しました。彼は「これからは発言に気をつけないといけない」と述べ、過去の動画、特に韓国の大統領や韓国社会に対する批判的な内容を含む動画について、問題となり得るものはすべて削除(非公開化)する意向を明確に示しました。この発言から、一連の動画大量削除が、韓国警察による捜査着手という外圧に対する、直接的かつ防御的な対応措置であったことは明らかです。
インフルエンサーにとって、過去のコンテンツは資産そのものです。それを大量に削除(非公開化)するという決断は、彼が直面している法的なリスクがいかに深刻であるかを物語っています。この迅速な対応は、事態の鎮静化を図るとともに、捜査当局に対して反省の意を示す狙いがあった可能性も考えられます。
1-3. デボちゃん本人の釈明「悪意はなかった」
動画を削除(非公開化)するという対応を見せる一方で、デボちゃんさんは問題となった発言の「意図」について、自身の潔白を強く主張しました。彼は釈明動画の中で、警察からは「悪意をもってフェイクニュース(虚偽ニュース)を流し、国のイメージを悪くさせた罪」で捜査対象になったと説明された、と述べています。
しかし、デボちゃんさん自身の認識は異なっていました。彼は、自身にそのような「悪意」は一切なかったと反論。問題の発言は、彼がゼロから作り出したものではなく、「韓国人のコメントを紹介しただけ」のものであると主張しました。さらに、「今の韓国のメディアは(こうした情報を)全部隠しているから、『こういうコメントもある』という意味で見せた」と述べ、既存メディアが報じない「真実」を伝えたかったという意図があったことを示唆しました。
「韓国のイメージを悪くさせるために流したわけではない」とも強調しており、彼の認識としては、あくまで「事実の告発」であったというスタンスです。しかし、この主張は、警察当局が「確認されていない虚偽の内容」と断定した見解とは真っ向から対立しており、捜査の焦点がこの「事実認識のズレ」と「発信の意図」にあることを浮き彫りにしました。
2. 「下半身だけの遺体37体」発言は本当にデマだったのか?
今回の一連の騒動において、最大の核心部分は「韓国で下半身だけの遺体が37体発見され、非公開捜査が150件ある」という情報の真偽です。この数字はあまりにも具体的であり、強烈なインパクトを持っています。この情報は果たして事実に裏付けられたものなのか、あるいは根も葉もない「デマ」だったのでしょうか。
2-1. 韓国警察の見解「確認されていない虚偽の内容」
韓国の警察当局、すなわち公権力の見解は極めて明確です。警察庁は、デボちゃんさんが主張したこの内容を「確認されていない虚偽の内容」であり、「デマ」「フェイクニュース」であると公式に断定しています。これは単なる「誤報」や「行き過ぎた表現」といったレベルではなく、意図的な虚偽情報の流布であると見なしていることを意味します。
警察が「虚偽」とまで断言する背景には、当然ながら警察が保有する全国の犯罪統計や捜査情報との照合があったものと推察されます。もし「遺体37体」「非公開捜査150件」という事実が存在すれば、それは国家的な非常事態であり、警察が把握していないはずがありません。その上で「虚偽」と結論付けたことは、この情報が現実の犯罪統計とは全くかけ離れたものであることを示しています。
このデマとされる情報が日本語で発信され、日本国内のSNSなどで「韓国の治安は崩壊している」「怖くて行けない」といった反応を引き起こしたことは、警察にとって見過ごせない事態でした。これが「国益を損なう行為」とまで規定された理由であり、単なる名誉毀損を超え、国家の安全保障や経済活動に影響を及ぼす問題として扱われているのです。
2-2. デボちゃんが「根拠」としたものの正体
では、デボちゃんさんは何を根拠に、これほど具体的で衝撃的な情報を発信したのでしょうか。彼自身が「ゼロから作り出した」のでなければ、何らかの情報源があったはずです。複数の報道によれば、彼が動画内で「根拠」として提示、あるいは言及したのは、「現職検事を名乗る人物」がインターネット上に投稿したとされるコメントでした。</p
この情報源の性質は、極めて重要です。公的な機関の発表、主要メディアによる検証済みの報道、あるいは信頼できる統計データではなく、発信者の身元が確かなものではない、匿名のネット上の書き込みであった可能性が極めて高いのです。「現職検事」という肩書き自体が自称である可能性も否定できません。
YouTuber、特に大きな影響力を持つインフルエンサーが情報を発信する際、その情報源の信頼性を検証する「ファクトチェック」は最低限の責務です。しかし、デボちゃんさんは釈明動画の中で「(治安悪化の)証拠を見せながら話した」とも述べていますが、その「証拠」がこの信憑性の低いネットコメントを指しているのであれば、情報発信者としての責任を果たしていたとは言い難い状況です。彼は、その情報を「事実」として鵜呑みにし、拡散してしまった可能性が考えられます。
2-3. デボちゃん自身の反論「事実は事実」
事態をさらに複雑にしているのが、デボちゃんさん自身の対応です。警察から「虚偽情報」と公式に断定され、捜査対象となっているにもかかわらず、彼は自身の釈明動画の中で「下半身だけある死体が出ているのは事実だ」と、発言の核心部分について主張を曲げていません。
この頑なとも言える態度の背景には、何があるのでしょうか。一つの可能性として、彼が依拠した情報源(「現職検事を名乗る人物」のコメントなど)を強く信じ込んでいることが挙げられます。あるいは、「37体」「150件」という具体的な数字はともかく、「韓国で(原因不明の)遺体が発見される事件が起きている」という個別の事象を捉えて、「大筋では事実だ」と主張している可能性もあります。
しかし、個別の事件の発生と、「37体」「150件」という異常な数字の間には、天と地ほどの隔たりがあります。警察が問題視しているのは、明らかに後者の異常な数字がもたらす社会的パニックです。デボちゃんさんの反論は、この争点のすり替え、あるいは混同に基づいている可能性があり、警察の捜査に対しては説得力を欠くものとなるかもしれません。
2-4. 他のYouTuberも言及?情報の拡散経路
注目すべき点として、一部の報道では、この「下半身遺体」に関する情報は、デボちゃんさんだけが発信していたわけではなく、他の複数の韓国人YouTuberも同様に話題に取り上げていたと指摘されています。これが事実であれば、この情報はデボちゃんさんの単独の「創作」や「発見」ではなく、特定のインターネット・コミュニティやYouTuber界隈で、ある種の「共通認識」あるいは「流行のトピック」として流通していた可能性が浮上します。</p
デボちゃんさんが「韓国人のコメントを紹介しただけ」と主張するのも、こうした背景があるのかもしれません。つまり、彼は自分と同じような考えを持つ人々が集うコミュニティ(いわゆる「エコーチェンバー」)の内部で流通していた情報を、外部(主に日本の視聴者)に向けて発信したに過ぎない、という認識であった可能性があります。
しかし、コミュニティ内部でのみ「事実」として扱われる情報を、何の検証も経ずに公共の場であるYouTubeで拡散すれば、それは「虚偽情報の流布」という責任を問われることになります。内輪の常識が社会の非常識であったという、ネット時代特有の落とし穴にはまった格好と言えるかもしれません。
3. なぜ?韓国政府の「隠蔽」を主張する陰謀論の拡散
今回のデボちゃんさんの発言は、単に「遺体が発見された」という事実(とされるもの)の伝達に留まりません。その根底には、「韓国政府や主流メディアが、国民に不都合な真実を隠している」という、強い「陰謀論」的な世界観が存在しています。なぜ、このような言説が生まれ、拡散したのでしょうか。
3-1. デボちゃん自身が「メディアは隠している」と発言
この陰謀論的な視点は、デボちゃんさん自身の言葉からも明確に読み取れます。彼は釈明動画の中で、問題の情報を紹介した動機について「今の韓国のメディアは全部隠しているから」と説明しました。この発言は、彼が韓国の主要メディア(新聞、テレビなど)に対して強い不信感を抱いていることを示しています。
彼(そして彼と同様の考えを持つ人々)の世界観では、主流メディアは政府のプロパガンダ機関、あるいは特定の政治的勢力に支配されており、真実を報じない存在として映っています。だからこそ、メディアが報じない情報、特に「現職検事を名乗る」といった内部告発的な情報にこそ「真実」があると信じ、それを「暴露」することに使命感すら覚えていた可能性があります。
しかし、主流メディアが報じないのには理由があります。それは「隠蔽」だからではなく、「事実としての裏付けが取れない(=虚偽または未確認)」から報じない、という可能性の方が遥かに高いのです。この「報じない理由」の解釈の違いが、主流メディアと代替メディア(YouTubeなど)の間に横たわる深い溝となっています。
3-2. 拡散した「中国人犯罪」と「臓器売買」の恐怖
デボちゃんさんが拡散した情報が特に強い毒性を持っていたのは、それが「中国人による犯罪」や「臓器売買」といった、人々の根源的な恐怖や偏見を刺激する要素と強固に結びついていたからです。問題となった動画のタイトル「最近ビザなしで韓国に入国した犯罪者中国人達の殺人と臓器売買問題がやばい」は、その典型です。
このタイトルは、「ビザなし入国(政策)」→「中国人犯罪者(特定の外国人グループ)」→「殺人・臓器売買(凶悪犯罪)」という短絡的な因果関係を提示し、恐怖を煽ります。「下半身だけの遺体」という情報は、この「臓器売買」という陰謀論を裏付ける「証拠」として提示されたとみられます。
デボちゃんさんは、この動画を李在明(イ・ジェミョン)現大統領(当時)が進めた中国人の団体旅行客に対するビザなし入国政策への批判という文脈で投稿していました。つまり、彼の行動は政治的批判が動機でしたが、その手法として、最もセンセーショナルで、かつ特定の外国人グループへの差別意識を助長しかねない陰謀論的な言説を利用した形となりました。この点が、韓国当局が「社会の混乱を招く」と強く非難した部分であると考えられます。
3-3. なぜ陰謀論的な情報が支持を集めるのか
公的機関が「デマ」と公式に否定したにもかかわらず、なぜデボちゃんさんのような発信や、それに類する陰謀論的な情報が、一定の層から熱烈な支持を集め、拡散し続けるのでしょうか。この背景には、現代の複雑な情報環境が関係しています。
第一に、前述した主流メディアへの不信感です。政治的分断が激しい社会では、人々は自分と異なる意見を報じるメディアを「偏向している」と見なし、自分の信じたいことを報じてくれる情報源(それがYouTubeやSNSであっても)を求める傾向が強まります(確証バイアス)。
第二に、YouTubeなどのプラットフォームが持つアルゴリズムの特性です。これらのプラットフォームは、視聴者の視聴時間を最大化するために、より刺激的で、より感情に訴えかけるコンテンツを優先的に推薦(レコメンド)する傾向が指摘されています。その結果、穏当で事実に基づいた情報よりも、過激でセンセーショナルな陰謀論的な動画の方が視聴者の目に触れやすく、拡散しやすいという構造的な問題があります。
デボちゃんさんの動画も、こうしたアルゴリズムの波に乗り、彼の政治的スタンスに共鳴する視聴者層(韓国の現政権に批判的な層や、特定の外国人グループに警戒感を抱く層)に集中的に届けられ、熱狂的な支持を集めると同時に、その危険性を増幅させていったと考えられます。
4. 「陰謀論系YouTuber」への転身?デボちゃんの活動変化
デボちゃんさんのキャリアを振り返ると、初期の彼は日韓の文化の違いや韓国語、グルメなどを紹介する、いわゆるエンターテイメント・教育系のYouTuberでした。その親しみやすいキャラクターで多くの日本人のファンを獲得しました。しかし、特に韓国へ帰国してからの彼の活動は、明らかにその軸足を変えていました。一部のファンが懸念していた「変化」と、今回の騒動の関連性を探ります。
4-1. 2024年秋の「転機」と政治的発言の増加
デボちゃんさんの活動における明確な「転機」は、2024年10月頃に日本での生活を終え、母国である韓国・釜山へ帰国したことにあるとみられます。この帰国後、彼の動画コンテンツは顕著に政治色を強めていきました。</p
特に決定的だったのが、2024年12月に韓国で起きた非常戒厳の布告と撤回という政治的混乱でした。この事件を機に、デボちゃんさんは尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領と、彼が所属する保守系の政党「国民の力」への明確な支持を表明。デモ活動にも積極的に参加する様子を公開するなど、単なるコメンテーターの域を超え、政治的な活動家としての一面も見せるようになりました。
このスタンスの明確化に伴い、彼のYouTubeチャンネルは、尹前大統領の後を継いだ李在明(イ・ジェミョン)現大統領や、進歩(左派)勢力に対する批判的な動画を発信する主要なプラットフォームへと変貌していきました。その発信先は、韓国国内ではなく、主に「日本の視聴者」に向けて日本語で行われていたのが特徴です。
4-2. ファンが感じていた「違和感」と「懸念」
こうした急激な活動スタイルの変化は、すべての視聴者に受け入れられたわけではありません。特に、初期のエンタメ系コンテンツのファンからは、戸惑いや失望、そして懸念の声が上がっていました。ネット上のコメントを見ても、その空気感は明らかです。
「韓国前大統領の警察沙汰あたりから動画の内容がかわってきた」「ちょっと大丈夫かな?って違和感あった」「それ以前は面白い動画ばかりだったのに」「最近は政治絡みの動画しかなくてもうこっち路線で行くのかな〜と少し残念に思ってた」といったコメントは、彼の変化を敏感に感じ取っていた視聴者が少なくなかったことを示しています。
彼らが感じていた「違和感」や「懸念」は、単に「好きなYouTuberが政治の話を始めてつまらなくなった」というレベルに留まらず、「発言が過激になってきている」「炎上するのではないか」という危うさに対するものでした。今回の騒動は、まさにその「懸念」が最悪の形で現実化してしまったと言えます。
4-3. 騒動が浮き彫りにした「危うさ」
デボちゃんさんが日本で人気を博した理由の一つに、彼の「日本寄り」とも言えるスタンスがありました。「歴史問題にしつこいのは韓国側」「反日を唱えながら日本製品を使っているのはダサい」といった発言は、一部の日本人視聴者にとって痛快であり、強い支持を集める要因となりました。
しかし、この「日本寄り」のスタンスと、韓国国内の「保守派(右派)」のスタンス、そして「現政権(左派)批判」が結びついたとき、その発言は単なる文化批評を超え、極めて先鋭化した政治的メッセージとなります。特に、その批判の材料として「中国人犯罪」や「臓器売買」といったセンセーショナルで未確認な情報(陰謀論)を用いたことは、彼の発信の「危うさ」を決定的なものにしました。
エンターテイメントの領域では許容されていたかもしれない過激な物言いや単純化が、政治の領域では通用しません。インフルエンサーが政治的発言を行うこと自体は自由ですが、そこには発信する情報の正確性を担保する「ファクトチェック」という重い責任が伴います。今回、彼はその責任を十分に果たせず、発信者としての信頼を揺るがす事態を招いてしまった可能性があります。
5. デボちゃんは今後どうなる?逮捕の可能性と活動の行方
韓国警察から「重大犯罪」として名指しされ、サイバー捜査隊の捜査対象となったデボちゃんさん。彼のYouTuberとしてのキャリアは、重大な岐路に立たされています。法的な側面と活動の側面から、今後の見通しについて慎重に考察します。
5-1. 捜査の現状と適用が検討される法律
2025年11月8日時点で、デボちゃんさんが韓国警察によって逮捕された、あるいは身柄を拘束されたという公式な報道はありません。警察は「事実関係を確認したうえで、関連法令に基づき措置する予定」と発表しており、捜査はまだ継続中であると見られます。</p
今回の捜査で適用が検討されていると報じられているのは、韓国の「電気通信基本法」第47条第2項違反の疑いです。この法律は、公の利益を害する目的で、電気通信設備を用いて公然と虚偽の通信を行った者を処罰するといった内容を含むとされています。過去には表現の自由との関係で議論の対象となったこともある法律ですが、警察は今回、デボちゃんさんの行為が「国民の不安を煽り」「国益を損なう」という「公の利益」を害する行為に該当すると判断している模様です。
警察はまず、デボちゃんさんの国籍(韓国籍とみられる)や現在の正確な所在地(釜山に帰国中とみられる)の確認など、基礎的な捜査を進めている段階と考えられます。
5-2. 逮捕の可能性は?
「逮捕」の可能性について断定することはできませんが、一般論として、捜査当局が逮捕(身柄拘束)に踏み切るかどうかは、いくつかの要素によって判断されます。
デボちゃんさんに不利に働く可能性のある要素としては、警察がこれを「重大犯罪」と位置づけている点、そして彼自身が釈明動画で「(遺体発見は)事実」と主張し、警察の見解と対立している点が挙げられます。これは捜査への非協力的な態度、あるいは証拠隠滅(他の共謀者との口裏合わせなど)の恐れがあると見なされるリスクを含みます。
一方で、彼に有利に働く可能性のある要素もあります。彼は「警察の捜査を受けに行く」と自ら表明しており、逃亡の恐れは低いと判断される可能性があります。また、問題となった動画をすでに削除(非公開化)しており、これ以上の「虚偽情報」の拡散を自ら防ぐ措置を講じたと評価されるかもしれません。
最終的な判断は韓国の司法当局に委ねられますが、逮捕されるか否かにかかわらず、在宅起訴や略式起訴による罰金刑など、何らかの法的措置が取られる可能性は残ります。もちろん、捜査の結果、彼の主張が認められたり、悪質性が低いと判断されたりして、不起訴処分となる可能性もゼロではありません。現時点では、あらゆる可能性が考えられる状況です。(※本記事は、彼の逮捕や法的な結果を断定または予測するものではありません。)
5-3. 今後のYouTube活動への影響
法的な結論がどうであれ、今回の騒動が彼のYouTube活動に甚大な影響を与えることは避けられません。彼自身が「韓国(批判)関連の動画はすべて削除する」と明言したことは、これまでの「政治系YouTuber」としての活動スタイルの完全な放棄を意味します。
今後の活動として考えられるシナリオは、主に三つでしょう。
第一に、政治的なトピックからは完全に手を引き、キャリア初期のような日韓の文化比較、語学、グルメといったエンターテイメント・教育系のコンテンツに回帰する道です。しかし、一度「デマを拡散した」というレッテルが貼られた後で、かつてのような純粋なファン層の信頼を回復するのは容易ではありません。
第二に、政治的な主張自体は維持しつつも、その表現方法を大幅に修正する道です。陰謀論的な情報や未確認の「暴露」に頼るのではなく、公的なデータや信頼できる報道を基にした、より論理的で慎重な批判スタイルへと移行する可能性です。しかし、これは彼の既存の支持層が求める過激さとは相反するかもしれず、支持を失うリスクも伴います。</p
第三に、韓国警察からの捜査、社会的な強い批判、そして何よりも彼自身が感じているかもしれないプレッシャーによって、YouTube活動自体を長期間休止、あるいは縮小、最悪の場合は引退するという選択肢です。
いずれの道を選んだとしても、彼がかつて築き上げた「96万人の登録者」という数字の持つ意味は、今回の騒動によって大きく変質してしまったと言えるでしょう。
6. なぜ韓国に帰国?デボちゃんの経歴と転機
今回の騒動を理解する上で欠かせないのが、デボちゃんさんの日本から韓国への「帰国」という、彼の人生における大きな環境の変化です。彼がどのような経緯で日本での活動を終え、母国に戻ったのか、その背景を探ります。
6-1. 2024年秋の韓国帰国「家庭の事情」
複数のメディアや、彼自身の活動履歴をまとめた情報(Wikipediaなど)によれば、デボちゃんさんは2024年の秋、9月から10月にかけて、長年拠点とした日本を離れ、韓国へ帰国しました。帰国直前の2024年10月19日には、東京・新大久保で「またね 私のデボちゃん」と題したファンイベント(オフ会)を開催しており、これが日本での活動の一つの区切りとなったようです。</p
この帰国に際して公表された理由は、「家庭の事情」というものでした。これが具体的に何を指すのか(家族の健康問題、兵役後の予備役訓練、あるいは他の私的な理由など)については、彼自身から詳細な説明はなされていません。したがって、憶測で語るべきではありませんが、いずれにせよ、彼が日本での順風満帆なYouTuber活動を中断してでも、母国に戻らねばならない差し迫った事情があったものと推察されます。
この「帰国」という物理的な環境の変化が、彼の精神状態や関心事、そして発信する情報の内容に多大な影響を与えたことは、想像に難くありません。
6-2. 帰国後に強まった「政治色」
前述の通り、デボちゃんさんの活動が明確に政治色を強めたのは、この韓国帰国後のタイミングと完全に一致しています。日本に住んでいた頃は、あくまで「海外から母国を憂う」「日本の視聴者に韓国の実情を紹介する」という、ある種の「外部者」としての視点を保つことができました。
しかし、韓国国内に戻り、母国の政治的な緊張や社会的な分断を肌で日常的に感じることになった環境は、彼の発信をより直接的で、より感情的なものへと変化させた可能性があります。特に2024年12月の非常戒厳をめぐる混乱は、韓国社会を大きく揺るがす出来事であり、彼がこれに強く反応し、自身の政治的スタンス(保守派支持)を鮮明にしたのは、ある意味で自然な流れだったとも言えます。
問題は、その政治的メッセージの発信先が韓国国内の有権者ではなく、引き続き「日本の視聴者」であった点です。そして、その発信が韓国国内の法律(電気通信基本法など)に抵触するリスクを、彼がどれほど認識していたのか。日本からの発信であれば問題視されなかったかもしれない内容が、韓国国内からの発信であるがゆえに、当局の直接的な捜査対象となった。この「場所の変化」が、今回の騒動の決定的な引き金の一つとなったことは間違いないでしょう。
7. デボちゃんとは何者?その経歴とプロフィール
ここで改めて、デボちゃんさんという人物がどのような経歴をたどってきたのか、公表されている情報に基づいてそのプロフィールを整理します。
7-1. 基本プロフィールと学歴
デボちゃんさん(Debochan)は、1992年8月3日に韓国・釜山広域市で生まれたとされています。2025年11月時点で33歳となります。本名はチョ・デボム(曺大範、ハングル:조대범)と公表されています。
学歴については、釜山映像芸術高等学校を卒業後、韓国国内の大学を卒業したとされています。具体的な大学名については公表されていませんが、映像系の高校に進学したことからも、若い頃からクリエイティブな分野への関心が高かったことが伺えます。また、3人兄弟の長男で、妹と18歳年下の弟がいるといった家族構成も動画などで触れられていたようです。
7-2. 日本移住とYouTuberデビュー
彼の人生における最初の大きな転機は、韓国での兵役を終えた後、24歳の時にアメリカ・ニューヨークへ留学したことでした。彼自身が語ったところによれば、この留学中に日本人と知り合ったことがきっかけで、日本文化への興味が深まったといいます。当初は2年ほどの予定で日本に移住しましたが、日本の生活が肌に合ったのか、そのまま長期にわたり日本で活動することになりました。
そして2018年9月、自身のYouTubeチャンネル「韓国人先生デボちゃん」を開設し、YouTuberとしての活動を本格的にスタートさせます。日本在住の韓国人という視点から、日韓の文化比較、韓国語講座、韓国グルメの紹介、あるいは自身の体験談などを、流暢な日本語と親しみやすいキャラクターで発信し、着実にファンを増やしていきました。
7-3. 新大久保でのアルバイト経験
彼の人気を支えたのは、動画の中の姿だけではありませんでした。2022年10月から2023年にかけて、彼は東京・新大久保にあるカフェ「Scoop Coffee」でアルバイトとして勤務していました。登録者数が数十万人に達する人気YouTuberが、実際にカフェで接客をしているという事実は大きな話題となり、彼に一目会うために多くのファンが店を訪れました。
このリアルな場でのファンとの交流が、彼の「身近なお兄さん」的なキャラクターを確立し、ネット上の人気をさらに強固なものにした側面があります。画面越しの存在であるだけでなく、実際に会えるインフルエンサーとしての側面も持ち合わせていたのです。
8. デボちゃんに彼女はいる?プライベートな噂
デボちゃんさんは30代の男性であり、そのルックスや親しみやすいキャラクターから、彼のプライベート、特に恋愛事情や「彼女」の存在について関心を持つファンも少なくありません。ネット上でも様々な噂や憶測が飛び交っています。
8-1. 交際に関する公式な情報
しかし、デボちゃんさんの恋愛や結婚に関するプライベートな情報について、彼本人、あるいは所属事務所から公式に発表された事実は、2025年11月8日時点で一切確認されていません。
YouTuberという職業柄、プライベートをどこまで公開するかは個人の裁量に委ねられています。過去の動画で恋愛観について語ったことはあるかもしれませんが、特定の人物との交際を公表したことはないようです。
ネット上では、過去の共演者や友人関係にある女性を指して「彼女ではないか」といった憶測が流れることがありますが、それらはどれも決定的な証拠を欠くものであり、単なる視聴者の推測の域を出ません。彼のプライベートに関しては、本人が公に語らない限り「不明」であり、過度な詮索は控えるべきでしょう。
9. 若い頃の活動と「親日」動画の原点
デボちゃんさんが日本で高い人気を獲得した背景には、彼の「親日」的とも評されるスタンスが大きく影響しています。彼がどのようにしてそのスタイルを確立し、それが今回の騒動にどう繋がっていったのか、その原点を探ります。
9-1. NY留学と日本への興味
彼の経歴を振り返ると、その原点は政治的な信条以前に、純粋な「文化的好奇心」にあったことがわかります。兵役後に留学したニューヨークで、彼は日本のアニメや音楽、そして日本人自身と触れ合いました。この経験が、彼にとって「日本」という国をポジティブな対象としてインプットさせた最初のきっかけでした。
2018年に日本でYouTuberとして活動を始めた当初のコンテンツも、政治的なものではなく、日韓の文化の違いを面白く紹介するものが中心でした。彼にとって「日本」は、生活の場であり、自身のクリエイティブな活動の舞台でした。このポジティブな関係性が、彼の発信の基盤となっていたことは間違いありません。
9-2. YouTuberとしての「親日」スタンス
活動を続ける中で、彼は徐々に日韓のデリケートな問題にも触れるようになります。例えば、「歴史問題にしつこいのは韓国側である」といった見解や、「反日を唱えながら日本のアニメやブランドを消費している人々を“ダセェよ”と批判する」といった発言です。
これらの発言は、韓国の「反日」的な風潮に疑問や不満を抱いていた一部の日本人視聴者にとって、まさに「溜飲が下がる」ものであり、強い共感と支持を集めました。彼の「日本寄り」のスタンスは、日本市場で活動する上で非常に強力な「武器」となり、彼のチャンネル登録者数を押し上げる大きな要因となりました。
しかし、この「武器」は両刃の剣でもありました。日本で支持を集めれば集めるほど、その発言は韓国国内の一部の層からは「国を売る行為(売国奴)」と見なされ、強い反発を買うリスクを内包していました。そして、そのスタンスが韓国の国内政治批判と結びつき、さらに「中国人犯罪」といった未確認情報と結びついたとき、その「武器」は制御不能な「リスク」へと転化しました。今回の騒動は、彼の成功の要因そのものが、彼を最大の危機に陥れたという皮肉な構造を持っています。
10. 過去の「林原めぐみ騒動」とは?何があったのか
デボちゃんさんの名前が、今回の警察沙汰以前に、日本のインターネット上で大きく取り沙汰された事件があります。それが、2025年6月に起きたとされる、声優の林原めぐみさんのブログを発端とする騒動です。
10-1. 騒動の経緯
報道によれば、2025年6月、絶大な人気と影響力を持つ声優・林原めぐみさんが、自身の公式ブログで「韓国YouTuber」について言及しました。その際、彼女は「テレビで報じない内容」「報道規制」といった言葉を使い、彼らが発信する情報(特に韓国の政治情勢などに関するもの)を称賛するような内容を投稿したとされています。
問題は、この時、彼女がその「韓国YouTuber」の具体名として、デボちゃんさんの名前を(他の複数のYouTuberと共に)挙げていたとされる点です。日本のアニメ・声優界の重鎮である林原めぐみさんから名指しで推奨されたことは、デボちゃんさんの知名度と信頼性を(少なくとも特定の層に対して)一気に高める効果があったと考えられます。
10-2. 波紋とブログの修正
しかし、この林原めぐみさんの投稿は、ネット上で大きな波紋を呼びました。J-CASTニュースなどのネットメディアもこの騒動を取り上げました。批判の多くは、「著名な声優が、主流メディアを『報道規制』と批判し、信憑性の定かでないYouTubeの情報を無邪気に推奨するのは問題ではないか」「彼女の影響力を考えると、陰謀論的な言説の拡散に加担することになりかねない」といった内容でした。
この騒動の結果、林原めぐみさんはブログの当該記事を一部修正し、デボちゃんさんらの具体的な名前を削除するなどの対応に追われたと報じられています。
この一件は、今回の騒動のわずか数ヶ月前に起きていました。この時点で既に、デボちゃんさんは「主流メディアが報じない(とされる)情報を発信する、政治的なYouTuber」として、特定の層から強く認識され、支持されていたことを示す象徴的な出来事でした。そして同時に、彼が発信する情報が持つ「危うさ」もまた、この時に既に露呈していたと言えるかもしれません。
11. デボちゃんの所属事務所「Carry On」とは?
デボちゃんさんは、個人で活動しているわけではなく、日本のクリエイターマネジメント事務所に所属するプロのYouTuberです。彼の活動をサポートする事務所について、その概要と経緯を説明します。
11-1. 現在の所属事務所「Carry On」
公表されている情報(Wikipediaなど)によれば、デボちゃんさんは2023年8月から「株式会社Carry On(キャリオン)」という事務所に所属しています。この事務所は、YouTuberやTikTokerなど、インフルエンサーのマネジメントを主軸に、企業とのタイアップ(プロモーション)、ECサイトでのグッズ販売、イベントの企画運営など、クリエイターの活動を多角的にサポートする企業です。
事務所に所属することで、クリエイターは面倒な事務作業や企業との交渉を任せられる一方、事務所側はクリエイターの活動内容が法的・倫理的な問題を引き起こさないよう管理・監督する責任も(程度によりますが)生じます。今回の騒動において、Carry Onがどのような対応を取っているのか(あるいは取っていなかったのか)も、今後の注目点の一つです。
11-2. 過去の所属事務所「Kiii」からの移籍
Carry Onに移籍する前、デボちゃんさんは2019年7月から「Kiii(キー)」という別のYouTuber事務所に所属していました。Kiiiも多く人気YouTuberを抱える大手事務所の一つでしたが、経営陣をめぐる内部騒動などをきっかけに、デボちゃんさんを含む多くの所属クリエイターがKiiiを離れ、Carry On(Kiiiの元経営陣が設立したとも言われる)へ移籍したという経緯があるようです。
これらの経緯は、彼が単なる個人の趣味で活動していたのではなく、日本のYouTuber業界の枠組みの中で活動してきた、プロのインフルエンサーであることを示しています。それだけに、今回のような法的リスクを伴う問題を引き起こしたことの衝撃は、業界内でも小さくない可能性があります。
12. なぜ「日本称賛・嫌韓」動画は再生数を稼げるのか?
今回のデボちゃんさんの騒動は、彼個人の問題であると同時に、YouTubeというプラットフォームに巣食う、ある種の「ビジネスモデル」の歪みを浮き彫りにしました。なぜ、「日本を称賛し、韓国を批判する(嫌韓)」といった内容の動画が、これほどまでに再生数を稼ぎ、人気を博するのでしょうか。その構造を分析します。
12-1. 「感情」と「対立」がエンゲージメントを生む
YouTubeの収益モデルの根幹は、広告です。そして、広告収益を最大化するため、YouTubeのアルゴリズムは「視聴者の可処分時間をいかに長く奪うか(総視聴時間)」を最適化するように設計されています。視聴者を惹きつけ、画面に釘付けにする動画が、アルゴリズムによって優遇され、より多くの人におすすめ(レコメンド)されます。
では、どのような動画が視聴者を惹きつけるのか。それは、論理的で淡々とした事実の解説よりも、「怒り」「喜び」「恐怖」「嫌悪」といった人間の強い「感情」に訴えかける動画です。「日本はこんなに素晴らしい」「それに比べてあの国はこんなに酷い」といった内容は、視聴者の愛国心(内集団バイアス)や、特定の他国への優越感・警戒感を強く刺激します。
さらに、「日本 vs 韓国」「主流メディア(嘘) vs 俺たち(真実)」「保守 vs 左派」といった分かりやすい「対立構造」を提示する動画は、コメント欄での激しい議論(いわゆる「レスバトル」)を誘発します。この「コメントの多さ」や「高評価・低評価の多さ」もまた、アルゴリズムが「注目されている動画(エンゲージメントが高い)」と判断する重要な指標となります。結果として、より過激で、より対立を煽るような動画が拡散されやすくなるという、負のスパイラルが生じがちです。
12-2. 『YOUは何しに日本へ?』との共通点と相違点
「外国人の視点から、日本の素晴らしさを再発見する」というコンテンツの型は、何もデボちゃんさんのようなYouTuberの専売特許ではありません。テレビ東京の人気番組『YOUは何しに日本へ?』は、まさにそのフォーマットで国民的な人気番組となりました。
両者には「外部の視点」という共通点があります。しかし、その制作プロセスと倫理観には決定的な違いが存在します。テレビ番組、特に地上波のドキュメンタリー・バラエティ番組は(建前上であっても)、放送倫理やBPO(放送倫理・番組向上機構)の基準に則り、事実関係の確認(ファクトチェック)や、過度な演出・偏見の排除といった編集上のプロセスを経ています。
一方で、YouTubeは基本的に「個人の発信」の場です。そこにはテレビ局のような厳格な考査部門や、多層的なファクトチェックの仕組みは存在しません。YouTuber個人の倫理観やリテラシーが、コンテンツの質をすべて決定します。『YOUは何しに日本へ?』が「空港で出会った外国人の純粋な日本体験」というドキュメンタリーの体裁を取るのに対し、一部のYouTuberの動画は、初めから「日本称賛」「特定国批判」という結論ありきで構成される「プロパガンダ」に近い側面を持つ場合があります。
視聴者側も、テレビ番組にはある程度の「客観性」を期待する一方で、YouTuberには「個人の本音」「主流メディアが言えないこと」を期待する傾向があります。この期待が、デボちゃんさんのような発信者を後押しし、同時に、検証の甘い情報を拡散させる土壌ともなっているのです。
13. デボちゃんの推定年収は?
チャンネル登録者数96万人というトップクラスのYouTuberであるデボちゃんさん。その収入、いわゆる「年収」はどれくらいだったのでしょうか。多くの視聴者が関心を寄せる点ですが、その実態は謎に包まれています。
13-1. 年収の公表はなし
当然のことながら、デボちゃんさん自身が自身の正確な年収を公表したことはありません。これは他の多くのYouTuberと同様です。収入は個人のプライバシー情報であると同時に、ビジネス上の機密情報でもあるため、公にされることはまずありません。
13-2. 推定サイトの数字はあくまで「目安」
インターネット上には、YouTuberのチャンネル登録者数や総再生回数などから、その広告収入(AdSense収入)を機械的に試算する、いわゆる「推定年収サイト」が多数存在します。これらのサイトがデボちゃんさんの年収を「数千万円」などと算出している例も見られます。
しかし、これらの数字は、あくまで「1再生あたり0.X円」といった画一的な単価を当てはめただけの「概算」に過ぎず、全くあてになりません。実際の広告単価(RPM)は、動画のジャンル(政治系かエンタメ系か)、視聴者の年齢層、視聴されている国、動画の長さ、季節要因などによって、極端に大きく変動します。したがって、これらのサイトの数字を鵜呑みにすることはできません。
13-3. 今回の騒動による収益への影響
年収の正確な額は不明ですが、確実なのは、今回の騒動とそれに伴う動画の大量削除(非公開化)が、彼の収益に壊滅的な打撃を与える可能性が高いということです。
YouTuberの収益の柱は、主に「広告収入(AdSense)」「企業案件(タイアップ)」「グッズ販売・メンバーシップ」の三つです。 まず、動画を削除(非公開化)したことで、それらの動画が稼ぎ出していた過去の広告収入(再生され続ける限り発生する)がゼロになります。これは膨大な「資産」の損失です。 次に、これだけ大きな社会的問題を引き起こしたインフルエンサーに対し、企業が「企業案件」を依頼することは、ブランドイメージ毀損のリスクが大きすぎるため、当面見送られる可能性が極めて高いでしょう。 最後に、ファンの信頼が揺らいだことで、グッズの売上や月額制のメンバーシップからの収益も減少する可能性があります。
インフルエンサーという職業は、人気(信頼)が収益に直結するビジネスモデルです。その信頼が根底から揺らいだ今、彼の経済的な基盤は非常に不安定な状態にあると推測されます。
14. 動画削除と捜査報道に対するネット上の反応
今回のデボちゃんさんの一連の騒動、特に韓国警察による捜査着手と本人の動画削除という対応は、ネット上で(特に日本の視聴者から)極めて多様な反応を引き起こしています。その反応は、彼の支持層と批判層で明確に二分されています。
14-1. 擁護・同情する声
デボちゃんさんを熱心に支持してきたファンや、彼の政治的スタンスに共感してきた層からは、彼を擁護し、同情する声が数多く上がっています。ネット上のコメントからも、その一端が伺えます。
彼らの主な論調は、「デボちゃんの無実を信じる」「彼がデマを流すはずがない」といった、彼の人格への信頼に基づいたものです。さらに踏み込んで、「これは韓国の現政権(左派)による言論弾圧だ」「本当のことを言ったから(政府に)目をつけられたんだ」と、デボちゃんさんを「権力と戦うヒーロー」として位置づける見方もあります。
また、「韓国のメディアが報じない真実を、勇気を持って発言してくれた」「彼の発言のおかげで韓国の危険性を知ることができた」と、彼の行動を称賛する声も根強く存在します。この層にとって、警察の「虚偽情報」という発表こそが「隠蔽」の一環であり、信じるに値しないものと映っています。
14-2. 懸念・批判する声
一方で、デボちゃんさんの最近の活動に懸念を抱いていた層や、彼のスタンスに元々批判的だった層からは、今回の騒動を「起こるべくして起きた」と捉える冷ややかな反応が多く見られます。
「最近の政治的な動画ばかりで、いつかこうなると思っていた」「発言が過激すぎたし、根拠も曖昧だった」「エンタメだけやっていれば良かったのに、残念だ」といったコメントは、彼の「転身」を残念に思う元々のファンからのものかもしれません。
さらに厳しい意見としては、「デマを流して日韓間の対立を煽り、再生数を稼ぐのは悪質だ」「影響力を自覚せず、無責任な発言を繰り返した結果だ」「親日ビジネスが破綻しただけ」といった、彼の活動そのものを強く非難する声もあります。この層にとって、韓国警察の捜査は「当然の措置」と受け止められています。
14-3. 動画削除への反応
彼が動画を大量に削除(非公開化)したという行動に対しても、反応は二分されています。 擁護派は、「警察の圧力に屈したのか」「身の安全が心配だ」「証拠隠滅ではなく、さらなる弾圧を避けるための苦渋の決断だろう」と、彼の行動に同情的な解釈をしています。
批判派は、「結局、デマだったと認めたようなものだ」「都合が悪くなったら逃げた」「潔白だと言うなら動画を消す必要はないはずだ」と、彼の行動を「敗北」あるいは「証拠隠滅」と見なしています。
このように、一つの事象(動画削除)が、見る人の立場によって全く異なる解釈をされており、彼をめぐるコミュニティの「分断」がいかに深刻であるかを物語っています。
15. まとめ:デボちゃん騒動の要点と今後の見通し
日本で絶大な人気を誇った韓国人YouTuber「韓国人先生デボちゃん」をめぐる一連の騒動は、単なる一インフルエンサーの炎上事件を超え、現代の国境を超える情報拡散の危うさ、日韓関係の複雑さ、そしてYouTubeというプラットフォームが抱える構造的な問題を浮き彫りにしました。最後に、今回の騒動の要点を整理し、今後の見通しについてまとめます。
- 発端と争点:デボちゃんさんが動画で「韓国で下半身遺体37体発見、非公開捜査150件」と発言。これが「中国人による臓器売買」といった陰謀論的な言説と結びついて拡散しました。
- 警察の対応:韓国警察は、これを「確認されていない虚偽の内容(デマ)」と断定。国民の不安を煽り、韓国の国際的イメージを損なう「重大な国益阻害行為」として、電気通信基本法違反の疑いで本格的な捜査に着手しました。
- 本人の対応:デボちゃんさんは警察の捜査を受け入れる意向を示す一方、発言の意図について「悪意はなかった」「メディアが隠す事実を伝えたかった」と釈明。しかし、「(遺体発見は)事実」との主張は崩していません。
- 動画の削除:警察の捜査発表を受け、デボちゃんさんは自身のチャンネルから韓国の政治批判など、問題となり得る過去の動画を大量に削除(非公開化)しました。
- 騒動の背景:2024年秋の韓国帰国後、デボちゃんさんの活動はエンタメ系から政治系(韓国保守派支持・現政権批判)へと大きくシフトしていました。この「政治化」と発言の「過激化」が、今回の騒動の温床となったとみられます。
- 浮き彫りになった問題:
- インフルエンサーの責任:96万人の登録者を持つ発信者として、情報の正確性を検証(ファクトチェック)する責任の欠如。
- 情報の国境:日本向けに発信した情報が、発信元の国(韓国)の法律で裁かれようとしているという、グローバルな情報流通のリスク。
- プラットフォームの特性:感情や対立を煽るコンテンツほど拡散されやすいYouTubeのアルゴリズムと、主流メディアへの不信感が結びつき、陰謀論的な言説の温床となっている実態。
- 今後の見通し:
- 法的側面:2025年11月8日現在、逮捕には至っていませんが、捜査は継続中です。本人が主張を一部撤回していない点や、警察が「重大犯罪」と見ている点から、予断を許さない状況が続きます。
- 活動側面:これまでの政治的な発信スタイルを継続することは極めて困難となりました。収益面でも大打撃が予想され、活動の休止、あるいは初期のようなエンタメ系への完全回帰など、根本的な方針転換を迫られることは確実です。
この一件は、情報を発信する側(インフルエンサー)には、その影響力に見合った重い「責任」が伴うことを、そして情報を受け取る側(視聴者)には、いかに魅力的な発信者であっても、その情報を鵜呑みにせず、複数の情報源と照らし合わせる「メディアリテラシー」が不可欠であることを、改めて強く突きつける事例となりました。デボちゃんさんがこの危機をどう乗り越え、どのような結論を出すのか、引き続き慎重な注視が求められます。


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