2025年11月、日本国内の政治的な議論が国際的な外交問題へと発展する、極めて深刻な事態が発生しました。中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事が、当時の高市早苗首相に対し「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやる」という衝撃的な内容をX(旧Twitter)に投稿したのです。この投稿は、即座に「外交官による駐在国首相への殺害予告ではないか」として認識され、日本社会に計り知れない衝撃と怒りを広げました。SNS上では瞬く間に大炎上し、主要メディアもこれを大きく報道するに至りました。
薛剣総領事は、なぜこれほどまでに過激で、外交儀礼を完全に逸脱したと受け取られる発言を公然と行ったのでしょうか。その背景には、直前に行われた高市首相による国会答弁がありました。さらに、この薛剣総領事という人物は、過去にも「イスラエル=ナチス」同一視発言や、日本の国政選挙期間中に「れいわ新選組」への投票を呼びかける投稿を行うなど、数々の物議を醸してきた経緯があります。同氏の言動は、単なる一個人の暴走というよりも、中国の習近平政権下で強まる攻撃的な外交スタイル「戦狼外交」を象徴するものとして、国際政治の専門家からも強い関心を集めています。
この記事では、一連の騒動の全容を解明するため、以下の各項目について、報道や公的資料といった信頼できる情報源に基づき、情報を網羅的に調査し、深く掘り下げて解説していきます。読者の皆様がこの複雑な問題を多角的に理解できるよう、事実関係を時系列に沿って丁寧に整理し、その背景にある政治的・法的な文脈を詳細に分析します。
- 薛剣総領事による高市首相への「首斬る」発言。その具体的な文言、投稿から削除に至る詳細な経緯、そして削除後も続いた同氏の主張。
- 発言の直接的な引き金となった、高市早苗首相による「台湾有事は存立危機事態」との国会答弁。この答弁が持つ法的な意味と、従来の政府見解との違い。
- 薛剣総領事とは一体どのような人物なのか。その生い立ち、詳細な学歴、そして駐日大使館勤務が長い「知日派」とされる側面と「戦狼外交官」としての側面の分析。
- 過去に引き起こした主要な炎上発言。「イスラエル=ナチス」同一視投稿の国際的な波紋と、2021年の「台湾独立=戦争」発言の背景。
- 日本の内政干渉と強く疑われた「れいわ新選組」への投票呼びかけ問題。日本政府が「極めて不適切」と抗議した経緯と、ウィーン条約との関連性。
- 「ペルソナ・ノン・グラータ(国外追放)」を求める国内世論。その法的な意味と、日本政府が強硬措置に踏み切れない外交的な事情。
- 薛剣総領事の私生活、特に家族(結婚・妻・子供)に関する情報。公表されている範囲での事実確認。
- これら一連の問題に対する、ネット上の多様な反応。単なる批判だけでなく、日本の安全保障や対中政策への提言を含む様々な意見の紹介。
この一件は、単なるSNS上の失言では片付けられません。日中関係の緊張、台湾海峡の安全保障、そしてSNS時代における外交のあり方といった、現代社会が直面する重要な論点をいくつもはらんでいます。本記事を通じて、読者の皆様がこの出来事の真相と、その背後にある複雑な力学を深く理解するための一助となれば幸いです。
1. 薛剣総領事、高市首相へ「汚い首を斬ってやる」衝撃発言の全容
2025年11月、日本中を震撼させた薛剣総領事の過激な発言。このセクションでは、その発端から削除に至るまでの詳細な経緯と、発言が日本社会に与えた深刻な影響について、時間を追って詳細に検証します。外交官による前代未聞の暴言は、どのようにして公然と発せられ、そしてどのような波紋を広げたのでしょうか。
1-1. 2025年11月8日深夜、X(旧Twitter)で何が起きたのか? 時系列で追う発言と炎上
問題の出来事は、週末を控えた金曜日の夜から土曜日にかけて、多くの人々がSNSを利用する時間帯に発生し、その拡散速度を早める一因となりました。
- 【発端】2025年11月7日(金)日中:
高市早苗首相が衆議院予算委員会に出席しました。この場で、立憲民主党の重鎮議員からの質問に対し、台湾有事(台湾海峡で武力紛争が発生する事態)について「存立危機事態になりうる」との踏み込んだ見解を表明しました。この答弁は、従来の日本政府の慎重な姿勢から一歩踏み出すものとして、即座に各メディアで速報されました。(詳細は第2章で後述) - 【投下】2025年11月8日(土)深夜:
日付が変わった深夜、薛剣総領事が自身の公式X(旧Twitter)アカウントを更新します。同氏は、前日の高市首相の答弁を報じた朝日新聞デジタルの記事リンクを引用する形で、問題の投稿を行いました。深夜という時間帯にもかかわらず、その衝撃的な内容は瞬く間にXユーザーの間で認識され始めました。 - 【炎上】2025年11月9日(日)未明~日中:
夜が明けると、投稿は爆発的に拡散。「中国の総領事が日本の首相を殺害予告」「外交官の言葉とは思えない」「これはテロ予告だ」といった驚きと怒りの声がX上に溢れかえりました。J-CASTニュースなどのネットメディアがこれを報じ、さらにYahoo!ニュースのトップにも掲載されるなど、事態は一気に「炎上」状態となりました。 - 【削除】2025年11月9日(日)夕方まで:
国内外からの凄まじい批判にさらされた結果、薛剣総領事は同日夕方までに、問題となった投稿を自身のタイムラインから削除しました。しかし、投稿のスクリーンショットは既に無数に保存・拡散されており、証拠隠滅とはなりませんでした。むしろ、削除という行為が「発言の不適切さを自ら認めた」と受け取られ、さらなる批判を呼ぶ側面もありました。 - 【反論】2025年11月9日(日)削除後:
薛剣総領事は、投稿を削除した後も沈黙しませんでした。自身の主張(「台湾問題は中国の内政問題であり日本は無関係」といった内容)を支持する他のユーザーの投稿を積極的にリポスト(拡散)。さらに、後述するような新たな「反論」とも取れる投稿を続け、全く反省していないかのような態度を示しました。
このように、事態はわずか48時間足らずの間に、国会答弁からSNSでの過激発言、そして国際的な炎上と投稿削除へと、極めてスピーディーに展開しました。外交官が公的なアカウントでこれほど直接的な暴言を発し、短時間で削除に追い込まれるという流れ自体が、極めて異例の事態であったと言えます。
1-2. 削除されたX(旧Twitter)の具体的な投稿内容と日本語のニュアンス
薛剣総領事が投稿し、後に削除したとされる具体的な内容は、J-CASTニュースなど複数のメディアによって報じられています。その内容は以下の通りです。
(高市首相の「台湾有事は存立危機事態」答弁を報じた朝日新聞デジタルの記事を引用した上で)
「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」
この投稿には、顔を真っ赤にして怒る表情の絵文字も添えられていたとされています。
この文章が日本社会に与えた衝撃は、単なる「不適切な発言」というレベルを遥かに超えています。その理由を、使用された日本語のニュアンスから分析します。
- 「勝手に突っ込んできた」:
高市首相の答弁を「日本側から(台湾問題に)首を突っ込んできた」と断じ、一連の問題の責任が日本側にあるとする強い非難の意図が読み取れます。 - 「その汚い首」:
単に「首」と言うだけでなく、「汚い(けがれ)」という極めて侮蔑的な形容詞を付け加えています。これは、発言者である高市首相個人に対する強烈な嫌悪感と軽蔑を公然と示したものであり、外交儀礼上あり得ない人格攻撃です。 - 「一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」:
これが最も問題とされた部分です。「斬る」という言葉は、刃物による殺害行為を直接的に連想させます。「躊躇もなく」という表現は、その実行に一切の迷いがないことを強調し、「~しかない」という断定的な物言いは、それ以外の選択肢がない(=斬ることが当然の帰結)という強い意志を示唆します。これは、比喩表現であったとしても、受け手にとっては直接的な「殺害予告」または「脅迫」と解釈されても仕方のない、極めて暴力的なレトリックです。 - 「覚悟が出来ているのか」:
これは、相手(高市首相)に対し、「(斬られる)覚悟はあるのか」と問い詰める、恫喝の言葉です。
薛剣総領事は日本語が堪能な「知日派」であるとされています。そうであるならば、これらの言葉が持つ強い暴力性、侮蔑性、脅迫性を理解した上で、意図的に使用した可能性が高いと考えられます。だからこそ、日本社会はこれを「外交官による失言」ではなく、「意図的な脅迫・恫喝」として、極めて深刻に受け止めました。
1-3. 「首相への殺害予告だ」日本国内で瞬時に巻き起こった批判と怒り
この投稿がX上で拡散されると、即座に日本国内のユーザーから凄まじい勢いで批判と怒りの声が噴出しました。
SNS上では、以下のような意見がトレンドの上位を占めました。
- 殺害予告・脅迫としての批判:
「これは比喩ではない。明確な殺害予告だ」「日本の現職総理大臣に対して、テロリストが犯行声明を出すのと同じレベル」「外交官の身分を隠れ蓑にした脅迫行為だ」 - 外交官の品位に対する批判:
「これが一国の代表である総領事の発言か」「外交官とは最も言葉に慎重であるべき職業ではないのか」「品性下劣とはこのことだ。即刻更迭すべき」 - 日本政府への要求:
「日本政府はなぜ抗議しないのか」「外務省は薛剣を呼び出して厳重に抗議しろ」「こんな人物はペルソナ・ノン・グラータ(国外追放)一択だ」「日本は舐められすぎている」 - 安全保障上の懸念:
「これは中国共産党の本音の表れだ」「日本が台湾に手を出せば、文字通り日本人を『斬る』ということか」「スパイ防止法が必要だ」
これらの反応は、単なる感情的な反発に留まりません。日本の主権と、国のリーダーである首相の身体の安全が、外国の外交官によって公然と脅かされたという事実に対する、根源的な恐怖と危機感が背景にあると言えます。安倍晋三元首相が暗殺された事件の記憶も新しく、要人警護の重要性が叫ばれる中での「首を斬る」という発言は、多くの日本国民にとって到底看過できるものではありませんでした。
1-4. 投稿削除後も続く主張「頭の悪い政治屋が選ぶ死の道だ」
薛剣総領事は、2025年11月9日の夕方までに問題の投稿を削除しました。しかし、同氏のSNS活動は止まらず、むしろ自らの正当性を主張するかのような投稿を続けました。
まず、同氏は「台湾問題は日本は関係ない、中国の問題なのだから中国人が解決するべき!」といった、自身の従来の主張に沿う一般ユーザーの投稿を複数リポスト(拡散)しました。これは、投稿削除が自らの非を認めたものではなく、あくまで「炎上を鎮めるための形式的な措置」に過ぎないという意思表示とも受け取れます。
さらに、中国人民解放軍の演習風景と思われる動画を添付し、「中国人民解放軍の真実の姿は今ご覧の通りで平和を守る世界一強力な砦となっている。中国内政への干渉、国家主権の損害、台湾両岸統一の妨害などは一切許さい」(原文ママ)と投稿。軍事力を背景に、他国の介入を牽制しました。
そして、極めつけは以下の連続投稿です。これらは、削除した「首斬る」発言の意図を、より「理論的」に補強しようとするかのような内容でした。
「『台湾有事は日本有事』は日本の一部の頭の悪い政治屋が選ぼうとする死の道だ」
「日本国憲法どうのこうのはともかく、それ以前に中日平和友好条約の法的義務に違反し、第二次世界大戦勝利の成果の一つである台湾の中国復帰を無視し、敗戦国として果たすべき承服義務を反故にし、国連憲章の旧敵国条項を完全忘却した余りにも無謀過ぎる試みだ」
「くれぐれも最低限の理性と遵法精神を取り戻して理性的に台湾問題を考え、敗戦のような民族的潰滅を喰らうことが二度とないようにしてほしい」
これらの投稿は、もはや外交官の言葉ではなく、一方的な政治的プロパガンダです。「頭の悪い政治屋」「死の道」「敗戦国」「民族的潰滅」といった侮蔑的・脅迫的な言葉を使い、高市首相の答弁を歴史認識問題にすり替え、日本全体を恫喝する意図が明確に表れています。
「首を斬る」という直接的な暴力表現は削除したものの、その根底にある強硬な姿勢、日本への圧力、そして台湾問題への不介入要求は全く変わっておらず、むしろその「理論武装」を強化したと言えるでしょう。この一連の行動は、薛剣総領事が自らの発言を「問題」とは認識しておらず、確信犯的に行っている可能性を強く示唆しています。
2. 発端は高市早苗首相の「台湾有事は存立危機事態」国会答弁
薛剣総領事が、外交官としてのキャリアを危険にさらし、国際的な大問題となることを顧みずに、なぜあのような常軌を逸した暴言をSNSに投稿したのでしょうか。その直接的な引き金は、前日の2025年11月7日、日本の国会で、当時の高市早苗首相によって行われた一つの答弁にありました。この答弁が、中国側にとってなぜ「越えてはならない一線」を越えたと受け止められたのか、その法的な意味と政治的な背景を深く掘り下げます。
2-1. 高市首相が言及した「台湾有事」と「存立危機事態」とは何か? 法的枠組みの解説
この問題を正確に理解するためには、まず「存立危機事態(そんりつききじたい)」という、日本の安全保障政策における極めて重要な法的概念を把握する必要があります。
- 「存立危機事態」の定義:
- この概念は、2015年に成立した平和安全法制(一般に「安保法制」と呼ばれる)の中核をなすものです。
- 武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(通称:事態対処法)において定義されています。
- その定義は、「我が国(日本)と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」とされています。
- 法的な帰結(何が可能になるか):
- 政府が特定の事態を「存立危機事態」として認定した場合、日本は自国が直接攻撃を受けていなくても、その「密接な関係にある他国」を防衛するために、限定的な「集団的自衛権の行使」が可能となります。
- これは、従来の「自国が攻撃された時のみ反撃する」という「個別的自衛権」の枠組みを大きく超えるものであり、日本の安全保障政策の歴史的な大転換点となりました。
- 従来の政府見解:
- 安保法制の成立時、政府は「存立危機事態」の具体例として、主に「日本近海で米国のイージス艦が攻撃されるケース」などを想定していました。
- 一方で、「台湾有事」がこれに該当するかどうかについては、歴代政権(安倍政権、菅政権、岸田政権など)は一貫して「個別具体的な状況に応じて判断する」という慎重な立場に終始し、台湾有事を「存立危機事態」の具体例として公に明言することは避けてきました。
- これは、台湾を「不可分の領土」とする中国の「一つの中国」原則に配慮し、中国側を過度に刺激することを避けるための外交的な配慮でした。
つまり、「台湾有事が存立危機事態にあたる」と日本の首相が公言することは、法的には「台湾を防衛するために、日本が中国と軍事衝突する可能性のある集団的自衛権を行使し得る」と宣言することに等しく、中国の核心的利益である台湾問題に日本が軍事的に関与する意思を示す、極めて重大な政治的メッセージと受け取られるのです。
2-2. 2025年11月7日 衆院予算委員会での具体的な答弁内容とその衝撃
2025年11月7日、衆議院予算委員会。この日、質疑に立ったのは立憲民主党の重鎮であり、外務大臣や幹事長などを歴任した岡田克也氏でした。岡田氏は、安全保障政策に精通した論客として、高市早苗首相に対し、台湾有事に関する政府の認識を鋭く質しました。
報道によれば、質疑応答の概要は以下のようなものでした。
岡田氏は、台湾有事が日本の安全保障に与える影響について質問し、それが「存立危機事態」に該当する可能性について、首相の具体的な見解を求めました。
これに対し、高市早苗首相は、まず「事態が存立危機事態に該当するか否かは、個別具体的な状況に即して、収集されたあらゆる情報を総合して客観的かつ合理的に判断すべきもの」という従来の政府答弁を踏襲しました。
しかし、岡田氏がさらに具体的なケースについての認識を迫ったところ、高市首相は以下のように答弁したと報じられています。
「例えば、台湾海峡において武力攻撃が発生し、それが我が国の存立に重大な影響を及ぼす蓋然性が高いと判断される場合、それは存立危機事態に該当する可能性があり得ると考える」
この答弁は、日本国内で大きな衝撃をもって受け止められました。なぜなら、これは日本の現職総理大臣が、初めて公の場(国会)で、「台湾有事」を「存立危機事態」の具体例として明確に挙げた瞬間だったからです。
歴代政権が中国への配慮から守ってきた「玉虫色」の答弁の枠組みを、高市首相が(意図的であったかどうかは別として)踏み越えたと見なされました。この答弁は、日本が台湾有事に対して、従来の「後方支援」や「経済制裁」といったレベルを超え、「軍事的な関与(集団的自衛権の行使)」も辞さないという姿勢を、国際社会、特に中国に対して明確に示したものと解釈されました。
この高市首相の答弁こそが、中国側、特に強硬な「戦狼外交」を信条とする薛剣総領事の逆鱗に触れ、「内政干渉だ」「日本の軍国主義の復活だ」という反発を買い、翌日の「汚い首を斬ってやる」という常軌を逸したSNS投稿へと直結したのです。中国側から見れば、これは日本の対中政策の重大な変更宣言であり、絶対に容認できない「挑発」と映ったことは想像に難くありません。
3. 薛剣(せつけん)とは誰で何者?異例の「戦狼外交官」の経歴と学歴
日本の現職首相に対し、SNS上で公然と「首を斬る」といった暴言を放つ人物。それが一国の外交を代表する総領事であるという事実に、多くの人が驚きを隠せません。ここでは、数々の物議を醸し、中国の「戦狼外交」の象徴的存在ともみなされる薛剣総領事とは、一体どのような経歴を持ち、どのような考えを持つ人物なのか、そのプロフィールの詳細に迫ります。
3-1. 薛剣総領事のwiki風プロフィール(生年月日、出身地)
まず、公表されている基本的な情報を整理します。
- 氏名: 薛 剣(せつ けん / 簡体字中国語: 薛剑 / 拼音: Xuē Jiàn)
- 生年月日: 1968年7月(2025年11月時点で57歳)
- 出身地: 中華人民共和国 江蘇省淮安市漣水県
- 江蘇省は中国東部の沿海部に位置し、経済的に非常に発展している地域の一つです。上海市に隣接しています。
- 現職: 中華人民共和国 駐大阪総領事(大使級)
- 「大使級」とは、総領事の中でも特に重要度の高いポストに与えられる格付けであり、薛剣氏が中国外交部内で一定の地位にあることを示唆しています。
3-2. 学歴は北京外国語学院日本学部(1992年卒)- 日本語のスペシャリスト
薛剣総領事の学歴は、同氏のキャリアを理解する上で非常に重要です。同氏の最終学歴は、北京外国語学院(現在の北京外国語大学)日本学部です。1988年に入学し、1992年に卒業しています。
北京外国語大学は、中国において外国語教育の最高学府とされており、特に外交官や国際的な人材を多数輩出していることで知られるエリート大学です。その中でも「日本学部」で専門的に日本語と日本文化・政治を学んだということは、薛剣氏が大学時代から日本を専門とするキャリアパスを歩んでいたことを意味します。
実際、同氏の日本語能力は非常に高いとされています。後に問題となるSNSの投稿も、多くが流暢かつニュアンスを理解した日本語(あるいは、意図的にニュアンスを利用した日本語)で書かれています。この高度な日本語能力が、後に日本の世論に直接訴えかけたり、あるいは意図的に挑発したりするための強力な武器となっている側面は否めません。
3-3. 職務経歴:駐日大使館勤務が長い「知日派」としての顔
1992年に大学を卒業した薛剣氏は、中国の外交官キャリアの王道である外交部(日本の外務省に相当)に入省します。その後の経歴は、驚くほど「日本」に特化しています。
- 1992年 – 1995年: 外交部アジア局 職員、アタッシェ
- 入省後、日本を含むアジア地域を担当するアジア局に配属されます。
- 1995年 – 1999年: 駐日大使館 アタッシェ、三等書記官
- キャリアの早い段階で、最初の駐日大使館勤務を経験します。
- 1999年 – 2006年: 外交部アジア局 三等書記官、二等書記官、副課長
- 本省に戻り、アジア局で日本担当としての実務経験を積みます。
- 2006年 – 2012年: 駐日大使館 一等書記官、参事官
- 二度目の駐日大使館勤務。ポストも上がり、日中関係の最前線で中核的な役割を担っていたと推測されます。
- 2012年 – 2014年: 外交部アジア局 参事官兼課長
- 再び本省のアジア局。
- 2014年 – 2018年: 駐日大使館 公使参事官
- 三度目の駐日大使館勤務。公使参事官は、大使、公使に次ぐ上級ポストであり、日本における外交実務の責任者の一人であったことを意味します。
- 2018年 – 2019年: 外交部アジア局 参事官
- 2019年 – 2021年: 外交部アジア局 副局長
- アジア局の幹部である副局長にまで昇進します。
- 2021年6月 – (現職): 在大阪総領事
- アジア局副局長を経て、西日本を管轄する重要拠点・大阪のトップである総領事(大使級)に着任しました。
この職務経歴を見れば明らかなように、薛剣氏は約30年の外交官キャリアのほとんどを、駐日大使館での勤務(通算3回、十数年に及ぶ)か、本省のアジア局(日本担当)で過ごしています。これほどまでに日本に精通した外交官は、中国外交部内でも稀有な存在と言えます。
同氏は、日本の政治、経済、社会、文化、そしてメディアの特性を深く理解しているはずです。そのため、同氏を単なる「日本を知らない強硬派」と見るのは誤りであり、むしろ「日本を知り尽くした上で、最も効果的(あるいは挑発的)な方法を選んで発信している」と見るべきでしょう。かつての同氏を知る日本の関係者からは、「以前は穏健で対話のできる人物だった」といった声も聞かれることがあり、その変貌ぶりが現在の中国外交の姿を映しているとも言われています。
3-4. なぜ変貌?「戦狼外交」の代表例とされる所以
これほどの「知日派」であるはずの薛剣氏が、なぜ「首を斬る」といった、およそ外交官らしからぬ攻撃的な言動を繰り返すのでしょうか。この背景には、習近平政権下で顕著になった中国の新たな外交スタイル、通称「戦狼外交(せんろうがいこう)」が深く関係していると広く分析されています。
- 戦狼外交とは?:
- 中国の愛国主義的な大ヒット映画『戦狼(Wolf Warrior)』に由来する言葉です。
- 従来の協調的・抑制的な外交姿勢(鄧小平時代に確立された「韜光養晦(とうこうようかい)」=才能を隠して時を待つ)とは対照的に、中国の国益や主張を、SNSなどを駆使して、極めて高圧的、攻撃的、恫喝的に主張する外交スタイルを指します。
- 習近平国家主席が掲げる「中華民族の偉大なる復興」というスローガンの下、国力の増大を背景に、欧米諸国などに対して一歩も引かない強硬な姿勢を示すことが特徴です。
- 薛剣氏のスタイル:
- 薛剣総領事は2021年6月に大阪総領事に着任すると、すぐにX(旧Twitter)の個人アカウント(@xuejianosaka)を開設しました。これは中国の外交官としては比較的珍しい動きでした。
- 当初は大阪の風景や日中友好に関するソフトな投稿もありましたが、次第に台湾問題、香港問題、ウイグル問題、歴史認識問題などで、日本のメディアや政治家、さらには一般ユーザーに対して、極めて攻撃的な言葉で反論・批判・恫喝を繰り返すようになりました。
- 今回の「首斬る」発言や、後述する「イスラエル=ナチス」発言などは、この「戦狼外交」スタイルの最たる例と見なされています。
- 背景にある動機(推測):
- 本国(習近平指導部)へのアピール: 習近平指導部が強硬な外交姿勢を評価する傾向があるため、薛剣氏のような外交官が、指導部の意向を「忖度」し、あるいは自らの忠誠心と「闘争精神」をアピールするために、あえて過激な発言を行っている可能性が指摘されています。出世競争の一環という見方です。
- 国内世論への配慮: 中国国内では愛国主義的なナショナリズムが高まっており、外国に対して弱腰な姿勢を見せることは許されません。SNSを通じて「外国と戦う外交官」の姿を中国国内に示すことで、国内の支持を得る狙いがあるとも考えられます。
- 確信犯的な戦略: 日本社会やメディアの特性を熟知した上で、あえて過激な言葉(「首を斬る」「敗戦国」など)を投げかけることで、日本国内に分断や萎縮(「中国を怒らせると怖い」という心理)を生み出そうとする、高度な情報戦・心理戦の一環であるという分析もあります。
このように、薛剣総領事の言動は、単なる個人の資質の問題ではなく、中国の国家戦略と外交方針の大きな転換点を体現していると分析されています。だからこそ、その一言一句が、日中関係の今後を占う重要な指標として、強い関心を集め続けているのです。
4. 薛剣総領事の過去の炎上発言まとめ:氷山の一角
2025年11月の高市首相への「首斬る」発言は、決して突発的なものではありませんでした。薛剣総領事は大阪総領事着任以来、一貫して物議を醸す発言をSNS上で繰り返しており、そのたびに国際的な注目と批判を集めてきました。ここでは、特に重大な問題となった過去の主要な「炎上発言」を二つ取り上げ、その詳細と背景を深く掘り下げます。
4-1. 2025年6月:イスラエルとナチス・ドイツを同一視する投稿で国際問題化
高市首相への発言のわずか約5ヶ月前、2025年6月。当時、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への軍事侵攻が激化し、国際社会から人道危機への懸念が強まっていた時期でした。薛剣総領事は、この極めてセンシティブな問題に対し、衝撃的な投稿を行いました。
- 投稿の具体的な内容:
- 薛剣総領事は自身のXアカウントに、一枚の画像を投稿しました。その画像には、イスラエルの国旗(ダビデの星)と、ナチス・ドイツの象徴である「かぎ十字(ハーケンクロイツ)」の旗が並べて描かれていました。
- さらに、その画像には両者を比較する表が記され、共通点として以下のような項目が挙げられていたと報じられています。
- 「国力の多くを軍隊に投入」
- 「国際法は無視」
- (その他、占領地への入植政策などを指摘する内容)
- 投稿の意図と解釈:
- この投稿の意図は明白でした。イスラエルが現在ガザ地区で行っている軍事行動を、かつてナチス・ドイツがユダヤ人に対して行ったホロコースト(大量虐殺)や侵略行為と同一視し、イスラエルを「現代のナチスだ」と非難するものでした。
- これは、国際政治のタブーの一つに触れる行為です。特に欧米諸国において、ホロコーストは人類史上類のない悲劇として扱われており、いかなる政治的比較も慎重に行われるべきとされています。イスラエルの政策を批判することと、ナチスと同一視することは、全く異なる次元の問題と捉えられています。
- 国際的な猛反発と削除:
- この投稿に対し、即座にイスラエル側が猛反発しました。イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使は、自身のXで「(薛剣氏の投稿は)あらゆる一線を越えた」と極めて強い言葉で非難しました。
- 同盟国であるアメリカからも批判の声が上がりました。この投稿は反ユダヤ主義的であるとの非難も浴び、国際的な外交問題へと発展しました。
- 世界中からの強い批判を受け、薛剣総領事は最終的にこの投稿を削除するに至りました。
- ネット上の多様な反応(賛否両論):
- 一方で、この投稿に対するネット上の反応は、高市首相への発言時とは異なり、賛否両論が入り混じる複雑なものでした。
- 薛氏に賛同・理解を示す意見: 「薛剣氏の言うことは間違っていない」「現在のイスラエルのガザでの行為はジェノサイド(大量虐殺)そのものだ」「ナチスに迫害された歴史を持つ民族が、なぜ同じことをパレスチナ人にしているのか」「ネタニヤフ(イスラエル首相)はヒトラーと同じだ」といった、イスラエルの軍事行動を厳しく批判し、薛氏の投稿に一定の理解を示す声も多数見られました。映画『関心領域』(アウシュヴィッツ収容所の隣で暮らすナチス高官の家族を描いた作品)を引き合いに出し、イスラエルの現状を皮肉るコメントも見られました。
- 手法への批判: 「イスラエルの政策批判は当然だが、ナチスと比較する手法は下品だ」「外交官がやるべきことではない」「反ユダヤ主義と取られても仕方がない」といった、主張の内容には理解を示しつつも、その表現方法の不適切さを指摘する声もありました。
この一件は、薛剣総領事が日本の国内問題だけでなく、国際的な地政学問題に対しても極めて攻撃的な手法で介入することを白日の下に晒しました。また、中国政府が伝統的にパレスチナ寄りの立場を取ってきたことを反映しているとも分析されました。
4-2. 2021年:「台湾独立=戦争。はっきり言っておく!」台湾問題での初期の恫喝
薛剣総領事の強硬姿勢は、大阪総領事着任(2021年6月)の直後から既に明確でした。その象徴が、同年10月に行われた以下の投稿です。
- 投稿の具体的な内容:
- 2021年10月、薛剣総領事は自身のXアカウントに、極めて短く、しかし強烈なメッセージを投稿しました。
「台湾独立=戦争。はっきり言っておく! 中国には妥協の余地ゼロ!!! 」
- 投稿の背景と意図:
- 当時、台湾の蔡英文政権がアメリカとの関係を強化し、台湾の国際的な存在感を高めようとする動きが活発化していました。これに対し、中国側は軍事的な威嚇(軍用機による台湾の防空識別圏への侵入など)を強めており、緊張が高まっていました。
- この投稿は、そうした国際情勢を背景に、日本の世論や政治家に対し、「台湾独立を支持するような言動は、すなわち戦争を引き起こす行為である」と直接的に恫喝し、釘を刺す狙いがあったと見られます。
- 「はっきり言っておく!」「妥協の余地ゼロ!!!」という、感嘆符を多用した感情的かつ断定的な表現は、まさに「戦狼外交」のスタイルそのものでした。
- 日本国内での反応(国会での問題化):
- このあからさまな恫喝に対し、日本国内からも即座に懸念の声が上がりました。
- 当時、無所属(後に自民党会派)の松原仁衆議院議員は、この投稿を重大な問題と捉え、衆議院に質問主意書を提出しました。
- 松原氏は質問主意書の中で、薛剣総領事の投稿を「言語道断である。このような恫喝は、断じて許されるものではない」と厳しく批判。日本政府に対し、この投稿がウィーン条約に定める内政不干渉の義務に違反するものではないか、また政府としてどのように対応するのか、見解を質しました。
この2021年の「台湾独立=戦争」発言は、薛剣総領事がSNSを武器に、日本の世論や政治に直接介入しようとする姿勢を初めて明確に示した事件でした。そして、この時にいち早く問題提起した松原仁議員が、その後も継続して薛剣総領事の言動を国会で追及し続けることになります。高市首相への「首斬る」発言も、この延長線上にある最大級の暴発だったと言えるでしょう。
5. 薛剣総領事とれいわ新選組の関係とは?衆院選での異例の投票呼びかけ問題
薛剣総領事が引き起こした数々の問題の中で、日本の民主主義の根幹である「選挙」に直接介入しようとしたとして、特に深刻に受け止められたのが、2024年の衆議院議員総選挙の期間中に起きた「れいわ新選組」への投票呼びかけ問題です。外国の外交官が、駐在国の国政選挙で特定の政党を名指しで支持するなど、前代未聞の事態でした。
5-1. 2024年10月 衆院選の真っ只中に「比例はれいわ」とXに投稿
問題の投稿が行われたのは、第50回衆議院議員総選挙の選挙運動期間の終盤にあたる2024年10月25日でした。この日は、投票日(10月27日)のわずか2日前であり、選挙戦が最も白熱している時期でした。
- 投稿の具体的な内容:
- 薛剣総領事は、自身の公式Xアカウント(@xuejianosaka)に、れいわ新選組の山本太郎代表が行っていた街頭演説の動画を引用する形で、以下のような日本語のメッセージを投稿しました。
「全国どこからでも、比例代表の投票用紙には『れいわ』とお書きください」
- 付け加えられた「支持理由」:
- この投票呼びかけの文言は、れいわ新選組が選挙運動で使用していたキャッチコピーそのものでした。さらに薛剣総領事は、なぜ同党を支持するのか(と読める)理由として、以下のような持論を付け加えました。
「どの国も一緒だけど、政治が一旦歪んだら、国がおかしくなって壊れ、特権階層を除く一般人が貧乏となり、とうとう地獄いきなんだ」
- この文章は、れいわ新選組が掲げる「格差是正」や「反緊縮」といった政策に共鳴するかのような内容であり、特定の政治思想への明確な肩入れを示すものでした。
当時、薛剣総領事のXアカウントは8万人以上のフォロワーを抱えており、その影響力は決して小さくありませんでした。外国の、それも中国の総領事が、日本の国政選挙で特定の政党への投票を公然と呼びかけるという行為は、日本の主権と選挙の公正性に対する重大な挑戦であり、内政干渉そのものであると広く受け止められました。
5-2. 日本政府が「極めて不適切」と即日抗議し削除要請
この前代未聞の事態に対し、日本政府(外務省)は迅速に対応しました。
- 即日の抗議と削除申し入れ:
- 報道および後の国会答弁(2024年11月22日閣議決定)によると、日本政府は投稿があった2024年10月25日の同日中に、この投稿が「極めて不適切」であると判断。
- 外交ルートを通じて、在大阪総領事館を含む中国側に対し、厳重に抗議するとともに、当該投稿を直ちに削除するよう強く申し入れを行いました。
- 投稿の削除:
- この日本政府からの迅速かつ強い申し入れを受け、薛剣総領事のアカウントから当該の投稿は同日中に削除されました。
- 政府が即日対応し、削除要求という具体的な行動に出たことからも、この問題をいかに深刻に受け止めていたかがうかがえます。
5-3. 松原仁氏の質問主意書と政府答弁の「外交的」な内実
この問題についても、薛剣総領事の言動を厳しく監視してきた松原仁衆議院議員が、選挙後の国会で質問主意書を提出し、政府の公式見解を質しました。
- 松原氏の質問の核心:
- 松原氏は、薛剣総領事の投稿が、外交官が接受国の国内問題に介入しない義務を定めた「ウィーン条約」(外交関係に関するウィーン条約第41条1項)に明確に違反するのではないか、と政府の法的な見解を質しました。
- さらに、過去の度重なる問題発言(「台湾独立=戦争」発言、国会議員への抗議書簡送付など)を挙げ、薛剣総領事を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外追放すべきではないか、と強く迫りました。
- 日本政府の答弁書(2024年11月22日閣議決定):
- これに対し、日本政府は答弁書で、まず事実関係として「御指摘の『投稿』は極めて不適切なものであり、中国側に対して外交ルートを通じて直ちに削除するよう申し入れ、当該投稿は、既に削除されたものと承知している」と、抗議と削除の事実を公式に認めました。
- しかし、ウィーン条約違反にあたるかという法的な見解については、「(『国内問題に介入しない義務』について)明確かつ具体的な基準が確立しているわけではない」「(選挙運動を行うことの具体的な態様が明らかではないため)一概にお答えすることは困難」と述べ、法的な断定を避ける外交的な言い回しに終始しました。
- また、国外追放(ペルソナ・ノン・グラータ)の要求に対しても、「政府の今後の対応について、現時点で予断をもってお答えすることは差し控えたい」と、明言を避けました。
この政府答弁は、外交的な配慮を強く感じさせるものです。「極めて不適切」として削除要求という実力行使は行いながらも、相手国(中国)の外交官を「条約違反」と法的に断定することや、「国外追放」という最も強硬なカードに言及することは、日中関係の全面的な悪化を避けるために、あえて抑制した表現を選んだと分析できます。
5-4. ウィーン条約違反(内政干渉)の可能性は極めて濃厚
政府が法的な断定を避けた一方で、薛剣総領事の行為がウィーン条約の精神に反する「内政干渉」である可能性は、国際法の専門家や多くのメディアから指摘されています。
- 該当する条文:
- 「外交関係に関するウィーン条約」第41条1項
「(前略)接受国の法令を尊重する義務を有する。また、その国の国内問題に介入しない義務を有する。」
- 「外交関係に関するウィーン条約」第41条1項
- なぜ内政干渉なのか:
- 国会議員を選ぶ総選挙は、その国の主権の根幹であり、最も重要な「国内問題」の一つです。
- 外国の政府関係者(外交官)が、その選挙の結果に影響を与えようと、特定の政党(れいわ新選組)を名指しし、有権者(日本国民)に投票を呼びかける行為は、「国内問題に介入しない義務」に真っ向から違反する行為であると解釈するのが、国際的な常識です。
- 例えば、もし日本の駐中大使が、中国の全国人民代表大会の選挙(形式的なものではあるが)に関して、特定の候補者や勢力を支持するような発言を公然と行えば、即座に重大な内政干渉として中国側から猛烈な抗議を受け、国外追放となってもおかしくありません。
薛剣総領事とれいわ新選組の間に、このSNS投稿以外で何らかの組織的なつながりや接触があったかどうかについては、公的な資料や信頼できる報道では確認されていません。なぜ薛剣総領事が数ある野党の中から「れいわ新選組」を選んで支持を表明したのか、その真意(同党の反緊縮政策や反米的な側面に共感したのか、あるいは与党を牽制するために対立軸の野党を持ち上げただけなのか)も不明です。
しかし、理由が何であれ、中国の総領事が日本の国政選挙に介入しようとしたという事実は、日本の民主主義と主権に対する深刻な脅威として受け止められ、薛剣総領事という人物の危険性を改めて浮き彫りにする事件となりました。
6. 薛剣総領事は国外追放(ペルソナ・ノン・グラータ)になるのか?
「台湾独立=戦争」発言、「れいわ」選挙介入疑惑、そして極めつけの「首斬る」発言。これほどまでに度重なる重大な問題行為を受け、日本国内では「なぜこのような人物を外交官として受け入れ続けているのか」「即刻、国外追放すべきだ」という強硬な世論が高まっています。ここでは、その「国外追放」の法的な根拠と、現実的なハードルについて詳しく解説します。
6-1. 「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」とは? 法的根拠と過去の事例
国内外のメディアで「国外追放」の可能性が報じられる際、必ず登場するのが「ペルソナ・ノン・グラータ(Persona non grata)」という外交用語です。これはラテン語で「好ましからざる人物」を意味します。
- 法的根拠(ウィーン条約):
- この措置の根拠は、「外交関係に関するウィーン条約」第9条1項に定められています。
- 条文には「接受国(日本)は、いつでも、かつ、その決定について理由を示すことを要しないで、派遣国(中国)に対し、使節団の長(大使)または使節団のいずれかの外交職員(薛剣氏のような総領事もこれに準ずる)がペルソナ・ノン・グラータであると通告することができる」とあります。
- 措置の内容と効力:
- 日本政府が中国政府に対し、薛剣総領事を「ペルソナ・ノン・グラータ」であると正式に通告した場合、中国政府は原則として、その人物を召還(本国に呼び戻す)するか、またはその外交官としての職務を終了させなければなりません。
- もし中国政府がこの要求を拒否したり、合理的な期間内に実行しなかったりした場合、日本政府は「その者が使節団の構成員であることを承認することを拒否する」(=外交官としての身分や特権を剥奪する)ことができます。
- つまり、これは事実上の「国外追放」を命じる、外交上最も強硬な措置の一つです。
- 「理由を示すことを要しない」ことの意味:
- この措置の最大の特徴は、接受国(日本)が「なぜその人物が好ましくないのか」という理由を一切説明する必要がない点です。
- これにより、接受国は、機密情報(例えばスパイ活動の証拠など)を公にすることなく、問題のある外交官を排除する権利を有しています。
- 過去の主な適用事例:
- ペルソナ・ノン・グラータは、決して珍しい措置ではなく、世界中で比較的頻繁に発動されています。
- 最も多い適用理由は「スパイ活動(諜報活動)」です。外交官の身分を悪用して、駐在国で違法な情報収集活動を行ったことが発覚した場合、両国が互いの外交官を「ペルソナ・ノン・グラータ」として報復的に追放し合うケースがよく見られます(例:米ロ間、東西冷戦時代など)。
- 次いで多いのが、薛剣総領事のケースのように「内政干渉」や「接受国に対する敵対的・侮辱的な言動」です。
- 日本でも、過去にスパイ容疑などで他国の外交官(旧ソ連など)をペルソナ・ノン・グラータに準ずる措置(事実上の国外退去要求)で排除した事例があるとされています。
このように、法制度上、日本政府が薛剣総領事を「ペルソナ・ノン・グラータ」として国外追放することは、明日にでも可能です。高市首相への「首斬る」発言は、スパイ活動以上に公然かつ悪質な「敵対的言動」であり、適用理由としては十分すぎると言えるでしょう。
6-2. 松原仁氏が国会で繰り返し「国外追放すべき」と要求
この法的な権利に基づき、薛剣総領事の言動を厳しく追及してきたのが、無所属の松原仁衆議院議員です。
- 松原氏は、2021年の「台湾独立=戦争」発言の時点から、薛剣総領事の言動を「恫喝」として問題視してきました。
- 2024年の「れいわ」選挙介入疑惑の際にも、質問主意書で「(薛剣総領事は)許されない行動を繰り返す」として、ペルソナ・ノン・グラータを通告して追放すべきと政府に強く迫りました。
- そして、2025年11月の「首斬る」発言が飛び出すと、松原氏は即座に自身のXで「ペルソナノングラータと国会で何度も訴えてきた。ウィーン条約に基づき国外追放すべきだ」と、改めて政府の決断を強く促しました。
松原氏の主張は、ネット上でも「その通りだ」「日本の主権を守れ」と多くの支持を集めており、国内世論が「国外追放」という強硬措置を求める大きな流れを作り出しています。
6-3. なぜ日本政府は即座に追放しないのか? 外交的なハードルと今後の見通し
法的には可能であり、国内世論もそれを支持しているにもかかわらず、なぜ日本政府は即座に薛剣総領事の国外追放に踏み切らないのでしょうか。そこには、極めて重い外交的・政治的なハードルが存在します。
- 1. 外交的な「報復措置」の可能性:
- 日本が薛剣総領事を追放した場合、中国政府が「報復措置」として、北京の日本大使館や他の総領事館に勤務する日本の外交官(例えば、駐中大使や上海総領事など)を「ペルソナ・ノン・グラータ」として追放してくる可能性が極めて高いです。
- これは外交の「相互主義」の原則に基づくもので、ほぼ確実に行われると予想されます。日本政府は、自国の重要な外交官を失うリスクを天秤にかける必要があります。
- 2. 日中関係の全面的な悪化・断絶への懸念:
- 外交官の追放は、両国関係において「宣戦布告」に次ぐレベルの深刻な敵対行為と見なされます。
- 特に中国は、日本にとって最大の貿易相手国であり、経済的な結びつきが非常に深いです。外交関係が極度に悪化すれば、経済活動(輸出入、サプライチェーン、日本人ビジネスマンの活動など)に甚大な悪影響が及ぶことを、政府も経済界も強く懸念しています。
- 3. 対話チャンネルの喪失:
- どれほど関係が悪化しても、政府間の対話チャンネルを維持することは、偶発的な衝突(例えば尖閣諸島周辺での衝突)を防ぐために不可欠です。
- 総領事を追放するという強硬措置は、そうした対話の窓口を閉ざし、不測の事態を招きかねないリスクがあります。
- 4. 「個人の暴走」か「政府の意向」かの見極め:
- 日本政府としては、薛剣総領事の言動が、中国政府(習近平指導部)の公式な意向を反映したものなのか、それとも同氏個人の「暴走」や「勇み足」なのかを慎重に見極めたいという思惑もあります。
- もし個人の暴走であれば、中国政府に「更迭」(本国召還)を水面下で要求する方が、関係悪化を避けつつ実利を取れる(問題人物を排除できる)という判断が働く可能性があります。
今後の見通し:
以上の点を踏まえると、日本政府が即座に「ペルソナ・ノン・グラータ」に踏み切る可能性は、現時点では高いとは言えません。あまりにも外交的なリスクとコストが大きすぎるためです。
現実的な対応としては、以下のような段階が考えられます。
- レベル1(既に実施済みか): 外務省事務次官が中国の駐日大使を外務省に呼び出し、「極めて遺憾であり、断じて容認できない」として厳重に抗議し、発言の撤回と謝罪、および投稿の削除を要求する。(「れいわ」問題の際は「削除要請」まででした)
- レベル2(水面下): 外交ルートを通じ、中国政府に対し、薛剣総領事の言動が日中関係を著しく害するものであるとして、同氏の「更迭」または「本国召還」を非公式に要求する。
- レベル3(最終手段): 上記の要求が受け入れられず、さらに問題行動が続く場合に限り、最後の手段として「ペルソナ・ノン・グラータ」を通告する。
ネット上のコメントでも、「毅然とした態度を示す絶好のチャンス」として強硬措置を求める声と、「中国との経済関係を考えろ」といった慎重論が交錯しています。日本政府は、国内の強い怒りの声と、冷徹な国際政治の現実との間で、極めて難しい判断を迫られています。「首斬る」発言という前代未聞の侮辱に対し、日本がどのような「答え」を出すのか、その対応が今後の日中関係、ひいては東アジアの国際秩序に与える影響は計り知れません。
7. 薛剣総領事は結婚してる?妻(嫁)や子供など家族構成は?
薛剣総領事の攻撃的な公的イメージが強烈である一方、その私生活、特に家族関係についてはほとんど知られていません。これほどまでに注目を集める人物であるため、「彼は結婚しているのか?」「妻(嫁)や子供はいるのか?」といった関心が寄せられるのも自然なことです。
7-1. 家族に関する公表情報は一切なし
結論から申し上げますと、薛剣総領事の家族構成(結婚の有無、配偶者(妻)や子供に関する情報)について、中華人民共和国駐大阪総領事館の公式サイト、中国外交部の公表資料、さらには日本の主要メディアや中国の国営メディアなど、信頼できる情報源を広範に調査しましたが、公表されている情報は一切見当たりませんでした。
- 公式サイトの記載:
- 中華人民共和国駐大阪総領事館の公式サイトには、薛剣総領事の「略歴」が掲載されています。
- しかし、そこには氏名、性別(男性)、生年月日(1968年7月)、出身地(江蘇省)、学歴(大学卒業)、そして1992年からの詳細な職務経歴が記載されているのみで、家族に関する項目は一切ありません。
- 外交官のプライバシーの通例:
- これは薛剣総領事が特殊というわけではなく、外交官の私生活、特に家族構成は、プライバシー保護や安全保障上の観点から、公にされないことが国際的な通例です。
- 大使や総領事が公務(レセプションやイベントなど)に配偶者を伴って出席し、その際に「〇〇大使夫人」として紹介されることはありますが、薛剣総領事に関してそうした報道が見られた形跡もありません。
したがって、薛剣総領事が現在「結婚しているのか(既婚者なのか)」「妻(嫁)がいるのか」「子供が何人いるのか」といった情報については、すべて「不明」であり、憶測で語ることはできません。同氏の公的な言動と、その私生活は切り離して考える必要があります。
8. 薛剣総領事の問題発言に対するネット上の反応まとめ
薛剣総領事の一連の言動、特に高市首相への「首斬る」発言や、「れいわ」選挙介入疑惑は、ネット上で膨大な数の意見やコメントを引き起こしました。それらの反応は、単なる感情的な批判に留まらず、日本の外交・安全保障政策のあり方や、中国という国家そのものに対する多様な見解を浮き彫りにしています。ここでは、報道されたコメントやSNS上の主な論調を傾向別に分類し、その背景にある世論を分析します。
8-1. 「重大な外交問題だ」「厳正な対応を」政府への強硬姿勢を求める批判的な意見
最も多く見られたのが、薛剣総領事の発言を「外交官としてあるまじき暴言」として厳しく非難し、日本政府に毅然とした対応を求める声です。これらは、日本の主権と尊厳が傷つけられたことに対する国民の率直な怒りを反映しています。
- 「暴言を通り越してもはや重大な『外交問題』であることは間違いない。一国民として、日本政府による厳正な対応を強く望む」
- 「一国の総領事たる者が、駐在国の首相に対してこのような発言を許しては断じてならない。外務省は即座に呼び出して厳重に注意するのは当然として、事の重大さを考えれば国外退去(ペルソナ・ノン・グラータ)も真剣に視野に入れるべきだ」
- 「自民党内には、岩屋氏(元防衛相)のような中国に対して融和的な議員もいると聞くが、ここで中国側の脅しに屈すれば、高市政権は未来永劫、中国から『舐められる』ことになる。これは対外関係に毅然とした態度を示す絶好のチャンスでもある」
- 「文化や表現方法の違いは各国にあるだろうが、少なくとも自国を代表して他国に駐在する外交官は、国際的に共通と見なされる礼節ある表現方法を用いるのが当然だ。そうではない人物は、国の代表として他国に駐在する資格がない」
これらの意見の背景には、「日本の首相が公然と侮辱されたにもかかわらず、日本政府が弱腰な対応に終始すれば、中国は今後さらに増長し、内政干渉や恫喝をエスカレートさせるだろう」という強い危機感があります。
8-2. 「もはや犯罪予告」「即刻更迭すべき」と中国政府の対応を問う声
発言内容の悪質さから、これを「脅迫」や「犯罪予告」と同一視し、外交問題である以前に法的な問題であると捉える意見や、薛剣総領事個人の責任ではなく、同氏を任命した中国政府の責任を問う声も目立ちました。
- 「『首を斬る』など、こんなことを言うのが駐日領事とは信じられない。本国(中国政府)もこの発言を当然把握しているはずだ。本当に日本との今後の関係を重視しているのであれば、即刻この人物を更迭しなければ筋が通らない」
- 「これは外交的な比喩表現などではない。どう考えても日本の法律における『脅迫罪』や『犯罪予告』に該当するのではないか。外交特権があるから逮捕できないだけだ」
- 「安倍元首相が暗殺された事件の記憶が残る日本で、首相に対して『首を斬る』と発言することの重さを理解していない。あまりにも非人道的で、日本国民の感情を逆撫でするものだ」
8-3. 日本の安全保障やスパイ対策の甘さを懸念する声
薛剣総領事の公然たる言動を、氷山の一角と捉える意見です。公の場でこれほどの敵対的言動ができる背景には、水面下でのさらに深刻な工作活動があるのではないか、という懸念が示されています。
- 「日本の安全保障体制を守るためには、こうした公然たる恫喝だけでなく、外国勢力による秘密裏のスパイ活動や影響力工作への対策が急務だ。法に基づいて厳正に対処できる法整備(スパイ防止法など)が必要だ」
- 「(『れいわ』投票呼びかけ問題は)中国による公然の選挙運動が行われたという事実だ。このことから推測するに、我々が知り得ない秘密裏の影響力工作は、極めて大規模に行われていると考えざるを得ない」
- 「高市政権を支持し続けることが中国への対抗上重要だが、自民党内にも中国に言い返せない議員が多いのも事実だ。有権者としては、選挙で保守の野党も強めておくなど、政治的なバランス感覚が求められる」
8-4. 中国への具体的な対抗策(経済制裁など)を提案する声
単なる批判に留まらず、中国の恫喝に屈しないための具体的な対抗措置を提案する、より踏み込んだ意見も見られました。
- 「有効な対策として、こうした問題発言がなされる都度、中国に進出している日系企業に対して、政府が公式に『チャイナ・リスク』を警告し、撤退を促す勧告を行うとよいのではないか」
- 「あるいは、中国に進出している企業の法人税率をリスク分だけ高めるなど、経済的な施策があっても良いと思う。中国の経済成長が鈍化している現在、政府が勧告すれば、撤退する企業も出てくるだろう。これはボディブローのように効いてくるはずだ」
- 「つまり、中国側が『何もしなくてもジリ貧、何か(問題発言)をしたらドカ貧』になるように仕向けていくわけだ。そうすれば、威勢のよい発言をするメリットがないと悟るだろう」
8-5. 「イスラエル=ナチス」発言に関する複雑な賛否両論
一方で、2025年6月の「イスラエル=ナチス」同一視発言に関しては、高市首相への発言とは全く異なり、薛剣総領事の投稿に賛同したり、一定の理解を示したりする意見が相当数見られたのが特徴です。
- 薛氏に賛同・理解を示す意見:
- 「薛剣氏の言っていることは、表現はともかく真っ当だ。現在のネタニヤフ(イスラエル首相)の行動は、ヒトラーのそれと何が違うのかと言いたくなる」
- 「自分たちの民族がかつてあれほどの悲劇(ホロコースト)を被った歴史を、今度は自分たちが他の民族(パレスチナ人)に対して繰り返しているじゃないか。映画『関心領域』が描いた『無関心』と全く同じ構造だ」
- 「イスラエルは建国以来、国際法を無視して数え切れないほどのジェノサイド(と非難される行為)を行ってきた。これを批判できないなら世界の方がおかしい」
- 「中立的な立場で両国の紛争の歴史を調べてみたが、イスラエルの正当性というのは全く見つからず、単なる世界のトラブルメーカーにしか見えなかった」
- イスラエル大使の反応に批判的な意見:
- 「イスラエルのコーヘン駐日大使は、自国がガザで行っている(と非難される)残虐行為に世界中から非難されてもどこ吹く風の厚顔なのに、こういった『ナチス』という言葉の比喩には敏感に反応するんだ。少しはガザの被害者のことを思うべきだ」
- 「自分たちがやられた(ホロコースト)から、他者(パレスチナ人)に何をしても許される、という思い上がりがあるのではないか」
このように、「首斬る」発言ではほぼ全面的な非難にさらされた薛剣総領事が、「イスラエル=ナチス」発言では一部の世論の支持を得た(あるいは、イスラエル批判の世論と利害が一致した)という事実は、同氏が非常に計算高く、国際情勢の「分断点」を突く形でSNSを利用している可能性を示唆しています。
9. まとめ:薛剣総領事の発言問題の核心と今後の焦点
中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事による一連の過激な発言、特に2025年11月に当時の高市早苗首相に対して放たれた「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやる」という投稿は、単なる外交官の「失言」や「暴言」という枠を遥かに超え、日中関係、日本の安全保障、そして国際社会における外交のあり方そのものに重大な問題を突きつけました。
この記事で詳細に調査・分析した内容を、改めて整理・総括します。
- 【発言の重大性】高市首相への「首斬る」発言:
2025年11月8日、薛剣総領事は、高市首相の国会答弁に反発し、X(旧Twitter)に「汚い首を斬ってやる」と投稿しました。これは駐在国の現職首相に対する「殺害予告」または「脅迫」と受け取られ、外交儀礼を完全に逸脱する行為として、日本国内で爆発的な批判を浴びました。投稿は批判殺到の末に削除されましたが、削除後も同氏は「頭の悪い政治屋が選ぶ死の道だ」「敗戦国として承服義務を果たせ」などと、日本の歴史認識にまで踏み込んだ攻撃的な投稿を続け、反省の意を全く見せませんでした。 - 【発端】高市首相の「台湾有事は存立危機事態」答弁:
発言の引き金は、その前日(11月7日)、高市首相が衆院予算委員会で、台湾有事を集団的自衛権行使の要件である「存立危機事態」の具体例として、日本の首相として初めて公に挙げたことでした。これは、台湾を「内政問題」とする中国の核心的利益に真正面から触れるものであり、中国側はこれを「越えてはならない一線を越えた挑発」と受け止め、猛烈に反発しました。 - 【人物像】薛剣総領事とは何者か:
同氏は1968年生まれ、江蘇省出身。中国のエリート校である北京外国語学院日本学部を卒業し、外交官キャリアのほとんどを駐日大使館や本省アジア局(日本担当)で過ごした、日本語堪能な「知日派」です。しかし、その経歴とは裏腹に、2021年の大阪総領事着任後は、SNSを駆使して攻撃的な言動を繰り返す、習近平政権下の「戦狼外交」の代表格と見なされています。 - 【過去の炎上】氷山の一角:
今回の発言は氷山の一角であり、同氏は過去にも数々の問題を起こしています。- 2025年6月「イスラエル=ナチス」同一視投稿: イスラエル国旗とナチスのかぎ十字を並べた画像を投稿し、イスラエル大使から「あらゆる一線を越えた」と猛批判を浴び、国際問題化しました。
- 2021年10月「台湾独立=戦争」投稿: 「台湾独立=戦争。はっきり言っておく!」とSNSで恫喝し、松原仁衆院議員によって国会で問題視されました。
- 【内政干渉】れいわ新選組との関係:
2024年10月の衆院選期間中、「比例はれいわ」と特定の政党への投票を公然と呼びかける投稿を行いました。これはウィーン条約が禁じる「内政干渉」の疑いが極めて濃厚であり、日本政府が「極めて不適切」として即日抗議し、削除を要請する異例の事態に発展しました。 - 【今後の措置】国外追放(ペルソナ・ノン・グラータ)の可能性:
松原仁衆院議員らは、度重なる問題行為に対し、ウィーン条約第9条に基づく「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」を通告し、同氏を事実上「国外追放」すべきだと国会で繰り返し強く要求しています。しかし、日本政府は、中国側からの外交的・経済的な報復を懸念し、これまでこの強硬措置の実施には慎重な姿勢を崩していません。 - 【家族構成】私生活は不明:
同氏が結婚しているか、妻(嫁)や子供がいるかといった家族構成に関する情報は、外交官のプライバシー保護の観点から一切公表されておらず、不明です。 - 【世論】多様なネット上の反応:
「首斬る」発言や「れいわ」問題に対しては、日本国内から「主権侵害だ」「厳正な対応を」という怒りの声が圧倒的多数を占めました。一方で、「イスラエル=ナチス」発言については、イスラエルのガザでの軍事行動への批判と相まって、薛氏の主張に一部理解を示す声も見られるなど、問題の性質によって世論の反応が分かれる複雑な側面も明らかになりました。
薛剣総領事の一連の行動は、力による現状変更を試みる権威主義国家が、民主主義国家の「言論の自由」(SNS)というプラットフォームを利用し、いかにその国内世論や政治に直接介入し、分断や萎縮を図ろうとしているかという、現代の「ハイブリッド戦」の一端を明確に示しています。
日本政府は、国内の「主権と尊厳を守れ」という強い世論と、「大国・中国との全面対立は避けたい」という外交的・経済的な現実との間で、極めて難しい舵取りを迫られています。
今後の焦点は、以下の点に集約されるでしょう。
- 日本政府が、今回の「首斬る」発言に対し、過去の「削除要請」を超える、どのレベルの公式な抗議(例:駐日大使の召致、公式謝罪の要求)を行うのか。
- 中国政府が、この薛剣総領事の「暴走」とも見える行動を、公式にどう評価するのか。暗に支持するのか、それとも問題視し、更迭などの処分を下すのか。
- 世論に押される形で、日本政府が「ペルソナ・ノン・グラータ」という最後のカードを切る可能性はあるのか。
- この一件が、今後の高市政権(当時)の対中政策、さらには日本の安全保障政策(特に「存立危機事態」の解釈運用)にどのような影響を与えていくのか。
「首を斬る」という言葉が突きつけたものは、単なる侮辱ではなく、台湾海峡をめぐる平和が極めて脆い基盤の上にあるという冷徹な現実です。この前代未聞の外交問題が、今後の日中関係、そして東アジアの未来にどのような帰結をもたらすのか、引き続き最大限の関心を持って注視していく必要があります。


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